建築現場の閉所が相次ぎ、人不足から人余りに急転しています。
この時期だからこそできる大工の採用・育成戦略を実行しましょう。
■人不足の解消は一時的なもの
新型コロナウイルスの影響により、住宅業界の労働市場が大きく変わりました。
多くの現場がストップし、住宅需要が激減したことにより、業界の最重要課題の一つだった人不足の問題が急速に解消されることになったのです。
人不足の解消は基本的には業界各社にとってはプラスです。
優秀な人財が確保しやすくなり、職人不足による工期の遅れや受注残が軽減しやすくなります。
右肩上がりで高止まりしていた人件費も、人不足が解消されるにつれて下がっていくでしょう。
しかし、さらに先を考えると決して安心できる状態とはいえません。
なぜなら、いずれ需要が戻ったときに、再び人不足に陥る可能性があるからです。
職人層はもともと高齢者が多く、コロナは高齢者ほど重症化しやすいといわれています。
そのため、今回の需要減をきっかけに多くの人が引退・離職してしまう可能性があります。
その状態で需要だけ戻ると、仕事があっても現場が立ち行かなくなります。
その結果、倒産や廃業に追い込まれてしまうリスクもあるのです。
それを避けるためには、中長期目線で需要の回復を見据え、職人を確保し、育成していく戦略が必要です。
育成には時間がかかります。
一般的には、一人前の大工を育てるために15年かかるともいわれます。
そのようなことを念頭に置きながら、優秀な大工を引き留め、新たな人を採用し、育てていくことが大事なのです。
■大工不足で家が建てられなくなる
現時点で人不足はどれくらい深刻な状態なのでしょうか。
私が主催・参加する勉強会などで調査したところ、大工不足で悩んでいる企業が多く、大工不足によって工期が遅れているところが83%に及んでいました。
特に深刻なのは拠点を広げている成長企業で、新たに参入する地域での職人確保が大きな課題となっています。
一方、地域密着型の工務店などは新規採用の悩みが小さい傾向があります。
しかし、高齢のため退職する、親の介護などのために離職するといった問題が継続的に発生し、彼らの代わりとなる人が確保できずにいます。
このような現状を踏まえると、今が大丈夫だからといって、2年後、3年後も大丈夫とは決していえません。
また、人不足の背景には国内の人口減少などが理由として挙げられますが、大工不足は人口減少のスピードをはるかに上回っています。
大工の数は、1985年には80万人でしたが、2010年には40万人に半減しています。
今後も5年に約5万人ずつ減っていき、15年は35万人、30年には21万人まで減ると予想されています(図1)。
しかも、そのうちの4割は60歳以上で、若い層が圧倒的に不足しています。
若い人が少ない理由は、簡単に言えば大工という職業に魅力を感じてもらえないからです。
収入面で見ると、大工の年収は40代後半がピークで、458万円ほどです。
1日の平均賃金も平均で1.5万円しかなく、生涯賃金も1.5億ほどで、世の中の平均を下回ります。
手に職がある仕事は不況に強いのが利点ですが、日本はここ10年近くにわたって好況が続いてきました。
他に待遇が良い仕事があり、労働力不足で売り手市場が続いている中で、わざわざ大工になる理由がなかったのです。
このまま大工不足が続けば、当然、着工数や会社の収益にも影響します。
新規の着工数と大工の減少数を踏まえてシミュレーションすると、新築住宅の着工戸数は人口減少に伴って減っていきますが、大工の数はそれ以上のペースで減ることが予想されています。
このペースでいけば、2025年には戸建て建設で1.2万人の大工不足が発生し、その結果、3.6万戸、30年には3.9万戸が大工不足が原因で建てられなくなります。
また、コロナの影響で現在は人不足が解消していますが、これも将来的にはマイナス要因になります。
というのも、仕事が減り、大工を辞める人が増えることで、将来の人不足がさらに深刻化するからです。
仮に今回の需要減で大工の数が減り、25年に需要が回復していた場合、大工不足は1.8万人に膨れ、5.6万戸が大工不足で建てられなくなります。
30年には1.9万人の大工不足となり、5.8万戸が建てられなくなります。
つまり、住宅関連企業にとっての最大の課題は大工の確保であり、受注をどうするかより、施工をどうするかを考える必要があるのです。
※本稿は、2020年4月に開催した「地域密着ビルダー成長戦略フォーラム」で登壇した当社コンサルタントの講演内容を編集したものです。
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