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接客覆面調査から分かる住宅営業のポイント~接客覆面調査に見る“売れる理由”と“売れない理由”〜(後編)

■第4章:売れているセールスが競合との競争に打ち勝つため自然と意識していること・・・「アンカリング」

先述したように、多くの方にとって実際は「購買経験がない」のがセールスの大きな特徴です。
化粧品や日用品の場合であれば、勝手は異なります。なぜなら、お客様自身に「購買経験」があり、「こういう買い方をしたら成功する」、「こういうものを買うと失敗する」という成功体験・失敗体験があるからです。

しかし、住宅の場合はお客様に「購買経験」がありません。
従って、心のどこかで「不安」を抱えており、「プロに納得のいく選び方を示唆して導いてもらいたい」という欲求があるはずなのです。
その意味で、他の業界では「販売担当員」は「ポータルサイト」や「口コミサイト」にとって代わっていったかもしれませんが、業界によって全く違う、ということがいえるでしょう。

だからこそ、お客様は「選びのポイント」を指定してもらいたいという欲求を持っています。
ここで大事になってくるのが「アンカリング」という考え方です。

アンカリングとは「お客様が「なるほど、選びのポイントは○○なんだな」と大きな気付きを得ている状態を指します。
「アンカリング」とは「船を港につなぎ留めておくアンカー」を語源とし、「他へ移動=他社の誘導」に流されることなく、自社につなぎ留めていくための機能を意味します。

お客様にとって、住まい選びにはさまざまな要素があります。ある会社は「構造・性能品質の高さ」という売りをアピールし、ある会社は「子育て環境を意識したプランニング」をアピールします。
そんな中、お客様はどういう判断基準で購入すればいいのか「指針」を持ちたいと思っています。それをしっかりと認識してもらうのがアンカリングの役割です。

逆に言うと、この「判断基準」が設定できれば、それだけ有利に営業活動を進めることができるのです。

実際のアンカリング事例を見てみましょう。

お客様、最近のトレンドとしましては、家具、インテリア、カラーなどをはじめとした内装を非常に重視される方が多くなっています。
私もそういうことをお客様と一緒に検討させていただくことが大好きです。
家作りで楽しい部分ですからね。

しかし、お客様。
実は家の中で一番お金がかかっている部分はそこではないんです。
37=内装:構造体の比率でお金がかかっています。

内装は非常に楽しいですから、ゆっくりじっくり検討することが良いと思いますが、変な話、内装はどこの会社でやってもそんな大差はありません。会社抜きでやりかえることもできます。
しかし、構造体は会社ごとに違います。
しかも7割、つまり建築コストのほとんどの部分がここにかかってきます。
ですから、まずは安心できる構造体選びが大事になります

上記の例では「住宅は内装(ソフト)ではなく構造体(ハード)」で選ぶべき、という判断基準を設定しています。
これがアンカリングです。

そして、当然自社/商品にとって有利な判断基準をお客様に設定する必要があります。上記の例では、その物件が「構造体(ハード)に強みを持っているからこそ話しているのです。

このアンカリングが掛かれば、極端な話、競合物件をお客様が見に行った際にも「構造体」という軸を重視して見てきます。そして「結局、あなたのところが一番だった」と戻ってくる仕掛けとなるのです。

自社/商品の強みに誘導する営業=ナビゲーションセールスの肝は、この「アンカリング」にあるのです。

いかがでしょうか?
このように、アンカリングは競合優位性を持たせ、自社にナビゲートするための最大の仕掛けだということをご理解いただけたのではないでしょうか。

「お客様の変化に対応できる営業担当者」は、競合の戦い方を特定、そして負けないようにアンカリングを設定・実践することができています。

それでは、次の事例を見てみましょう。

上記S社では、「設備・仕様のグレードの高さ」や「高性能」などの強みを保有しています。
地域の中では「高価格帯」のポジションであり、そもそも中小規模(ミドルコスト以下)のビルダーが対象とする顧客層とは異なる層を対象としていました。
S社の営業戦略の肝は、「いかにして"価格"についての考え方(基準設定)を変えるか」という一点に集約されています。

では、どのようなアンカリングを掛けているのでしょうか。
実際に見てみましょう。

アフターサービスに力を入れていることが重要である

一つ目の「企業の信頼」というところに関連しますが、当社はアフターサービスに力を入れている会社です。ポイントは三つあります。

一つ目は「24時間365日いつでもつながるコールセンターが用意されている」ということ。

(※中略)

二つ目は「25年目まで無償の点検が付いてくる」ということです。

1年目、3年目、5年目・・・と専門の点検員が行って、外壁、屋根裏、床下を全部点検していきます。
点検を無料でさせていただいて、保証の範囲外のものがあった際には都度、有償で対応になっていきます。

何が有償になってくるのか?

電気設備などは5年で保証が切れるので、そういうものは有償対応になってきます。
ただし、家の重要な部分に関しては通常より長く保証が取られています。
具体的には「雨漏りしない」という点に関する保証です。

家が保持されるために特に重要な骨組みの部分に関しては30年保証の範囲です。

「それは当たり前だ」と思われるかもしれませんが、実際は住宅の重要な部分に関する瑕疵が発生しているケースはたくさん起こっているのです。

例えば、今はどの家も高気密・高断熱の住宅です。
外壁に断熱材がたくさん詰まっています。
その断熱材が濡れてしまうと、家の性能そのものに関わってきます。
意外と断熱材にシロアリが湧いてしまって工事せざるを得ない状況に追い込まれることがあります。

そのような中、どこの会社も10年までしか見ていないことがほとんどです。
そして、10年目、20年目、30年目のタイミングで外壁を見直してください、と言われて費用が掛かってしまうのです。

その際には足場も組むので10年目や20年目のタイミングで100万円程度の工事が掛かってきます。
30年目も含めると300万円がメンテナンス費用として掛かってくることになります。 

外壁も交換してください、と言ってくるようなメーカーもあります。
交換などをやっていくと、本当にコストが掛かってきます。

■第5章:ホスピタリティが差別化になる時代

近年、住宅の営業接客においても、ホスピタリティの重要性が高まっています。
単に契約までのステップをどう描き、どうお客様を導いていくか、という営業シナリオだけではありません。お客様が心地よく受け入れてくださるよう、お客様にとって気持ちの良い接客でもてなすことが求められているのです。

ホスピタリティの重要性が高まっている背景の一つは、日本のサービス産業の進化にあると考えます。
かのオリンピック誘致の際にも「お・も・て・な・し」という言葉が話題になったように、昨今の日本のおもてなし力は、世界でもトップクラスのレベルにあるといえます。商品での差別化や大量販売が難しい時代にあっては、お客様に選ばれるお店になるために、少しでもサービスを良くし、サービスで高い満足度を得ようと考えるのは、必然の流れです。
そうした努力の結果、日本の店舗接客のレベルは、100円ショップのような低価格商品を扱うお店であっても決して雑な接客が許されないほどに、底上げ化されていったのです。

その結果、一般消費者の接客に対する期待水準は高まり続けています。
普通にそつなくこなすレベルの接客では、「不満」とはいかずとも、「あのお店はしっかりしているな」との印象にはなりません。
お客様の期待水準からすれば、そつのない対応はできて当たり前、プロならこちらが期待する以上のサービスをしてほしい・・・というのが本音でしょう。そしてあらゆる企業が、ホスピタリティ接客の模範ともいえるディズニーランド®やザ・リッツ・カールトンを目指して、接客力向上に日々励んでいます。

さて、翻って住宅業界の現状はどうでしょうか? お客様からすれば、「人生で一番高いものを買うのだから、最高の接客が受けられて当然」という気持ちではないかと思います。
ところが、多くの住宅会社の営業現場では、「最高の接客」どころか、単価の安いファストフード店に負けるレベルの接客をしているケースが散見されます。恐らくは、自分たちの商品(住宅)は差別化されたものだから、商品の説明さえしっかりすればお客様は納得してくれるだろう、といった浅はかな誤解から今でも抜け出せずにいるのではないでしょうか。

この状況を裏返して見てみると、あることに気づかされます。
つまり、ホスピタリティ力の高い接客は、それ自体が差別化になるということです。残念ながら住宅業界の平均的な接客レベルは他業界に比べ、低いと言わざるを得ません。先に紹介したミステリー・ショッピング・リサーチのレポートにも、「もっと配慮してほしかった」といった声が多数挙がってきます。「人生で最も高い買い物」の場面にもかかわらず、です。
その一方で、企業文化としてホスピタリティが根付いている企業においては、オーナー様からの紹介比率が50%を超えるような、高いロイヤルティを実現されています。それは決して商品による差別化ではなく、真にお客様満足を追求したサービスによる差別化なのです。
くしくも昨年末に開催した「S-1グランプリ決勝大会(接客力ナンバーワン決定戦)」で優勝された企業は、圧倒的なホスピタリティ接客でお客様を「感動」させ、結果として良い口コミが地域で拡散し、受注を伸ばし続けているという特徴を持った住宅会社でした。

しかしながら、このホスピタリティという目に見えない概念は、簡単に植え付けることができないものでもあります。
例えば、飲食店を例に取ってみると、「お客様が入店されたら、いらっしゃいませ、と元気よくあいさつする」「オーダーを聞く際には膝をつき、お客様の目線より下の位置でお聞きする」といった、基本応対であればマニュアル化することができます。
しかし、これらはホスピタリティといえるでしょうか? 日本ホスピタリティ協会が定義するところによると、ホスピタリティとは「狭義の定義では、人が人に対して行ういわゆるもてなしの行動や考え方であるが、真の意味では主客の両方がお互いに満足し、それによって信頼関係を強め、共に価値を高めていく「共創」そのものである」と定義しています。
つまり、一方的な接客であっては、どれだけ品の良い対応であったとしてもホスピタリティとはいえないのです。

真のホスピタリティ力は、相手を思う気持ちから生まれるものです。
従って、簡単にマニュアル化できるようなものではなく、お客様一人ひとりに合わせた対応が求められます。
こうした接客は、少し研修をしたからといってできるようになるものでもなく、ましてや上からルールを与えるだけでは、決してホスピタリティ力は身につきません。
遠回りに思えても、お客様の気持ちに耳と心を傾け、お客様に感情移入できる人財をコツコツ育てていくしかないのです。
そのためには、ホスピタリティを単にお飾り的なキャッチフレーズとして振りかざすのではなく、「企業文化」にまで昇華させる必要があるといえるでしょう。

■ 自社のホスピタリティ力を見てみませんか?

ホスピタリティ力を高める第一歩は、お客様の声に耳を傾けることです。
住宅会社の場合、契約に至ったお客様(お施主様)の声には積極的に耳を傾けているという会社は少なくないようですが、そもそも契約してくれたお客様というのは、一定以上満足していただいたお客様に他なりません。
自社の接客力を磨く上で大事なのは、「契約に至らないお客様の気持ちを知る」ことです。

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