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キャッシュをうむための財務戦略~安定的にキャッシュを生む方法とは〜(後編)

■ 格付けが低下してしまうとどうなるか?

~銀行からの融資対応が悪化したA社~

地元で注文住宅をメインに行っているA社の事例です。

ここ数年、取引している銀行から積極的に借入金額増加の打診を受けていました。社長としては、事業を伸ばす上で新規出店や常設モデルハウスが必要と感じており、銀行の融資を受けられることから、積極的に投資を行っていました。最初は順調に棟数を伸ばしていましたが、「人材育成が追いつかない」「商品力の低下」などの複数要因によって、売上高が減少し、赤字に転落してしまいました。

その決算書を銀行に提出したところ、それまで積極的に提案していた銀行担当者の態度が急変し、「これ以上の融資はできない」との回答でした。それどころか、金利の上乗せをしてほしいとまで言われたそうです。なぜ、このようなことになってしまったのでしょうか?

後から分かったことですが、赤字による自己資本比率の低下や、利益率の低下により、銀行の格付けで「正常先」から「要注意先」になっていたことが要因だったのです。

■ 事業計画書の重要性

ここまで読まれて、「融資判断は決算書ですべて決まるのか?」と思われたかもしれませんが、融資判断は決算書だけでは決まるわけではありません。確かに、銀行による格付け基準は決算書によってある程度決まってしまいます。

ただし、格付けだけで融資判断をするのであれば、コンピューターで自動化できてしまいます。融資判断をする上で、もう一つ大事なことは「今後の事業計画」です。

銀行員は格付けで「正常先」にしか融資をしないかといえば、そうではありません。「今は赤字であるけれど、今後の成長性がある会社」という根拠をしっかりと提示することができれば、融資を受けられる可能性が高まります。

私たちの経験では、特に住宅業界の経営者様は銀行に提出する事業計画書を軽視している方が多いように感じます。来期の事業計画書の数字(目標数字)だけを提出したり、その事業計画書が絵に描いた餅のように、まったく根拠がないものだったりするケースが散見されます。そのようなケースでは、銀行員は企業が作成した事業計画書を修正し、前期並みに変えて上司に提出するだけでなく、過去の損益計算書の売上高が減少傾向という場合、その減少率を来期の事業計画に当てはめてしまいます。

冒頭に述べたように、今後住宅業界は『斜陽産業』と見ているため、銀行員は企業が作成した事業計画書を鵜呑みにしない傾向にあります。また、企業が作成した事業計画をそのまま銀行員が上司に提出すると、「来期の事業計画書の妥当性」を問われた際に、回答することができません。企業が提出した事業計画書よりも厳しく修正する傾向があります。そのため、しっかりと根拠と計画性のある事業計画書を作成し、経営者自ら銀行に説明することが重要です。それによって、銀行員の印象は変わり、企業が作成した事業計画書をもとに、融資が行われる可能性が高まるのです。

決算書による格付けが多少低いとしても、事業計画書は融資を受ける、大きなチャンスになり得ます。事業計画書をどれだけ根拠を持って作成できるかが、銀行からの評価の分かれ目となるのです。

■ 銀行から評価される事業計画書の三つのポイント

銀行員から評価される事業計画書のポイントは三つあります。

一つ目は、「成長性」です。銀行にとっての収益の大半は、融資の利息です。そのため、銀行員としては、これから成長していく企業と取引したいと思っています。今後、先細りする企業よりも、成長性のある企業の方が継続的な融資が可能となるからです。

二つ目は、「中長期的な目線」で事業計画書が作成できているかどうかです。来期に向けた事業計画書のみを作成する企業と、35年を見据えた事業計画書を作成する企業とでは、銀行員の印象は異なります。もちろん、短期的な目線での事業計画書も大事ですが、銀行が融資をする場合は、35年の分割返済というケースがほとんどです。その際、来期だけでなく、「今後5年間、この企業は大丈夫だろうか?」という視点で銀行員は判断しますので、中長期的な事業計画書の作成が必要ということになります。

三つ目が、「実現可能性」です。実現可能性が高いかどうかは、事業計画書の根拠がしっかりとしているかどうかです。絵に描いた餅ではなく、「売上高を前期対比で○%向上させるために、今まで力を入れていなかった人材育成に力を入れている」「利益率を改善するために粗利○%以上の契約しかしない。そのために自社の弱みであったブランディングに力を入れる」など、具体的な根拠やアクションを明記することで、納得性が高まり、銀行員の担当者も上司への説明がしやすくなります。

実現不可能な事業計画書を作成しても、初回の借入時には、銀行員を納得させることができるかもしれません。しかし、次の決算書(あるいは、期中の試算表)で事業計画書との乖離が明らかになれば、銀行員からの信用を得られることは二度とないでしょう。

自社の事業計画書は「成長性」「中長期的な目線」「実現可能性」を考慮して、作成できているでしょうか?

もちろん、事業計画書を作成することが目的ではありません。成長戦略のある事業計画書を実行して、結果を残すことにこそ価値があります。

次の章では、実際に明確な事業計画書を作成し、財務内容の改善に取り組んだ企業を紹介いたします。

■ 財務内容改善取り組み事例

企画商品開発および工程管理の見直しにより粗利率改善に取り組んだA

A社は、こだわりの注文住宅を作ることを強みとした、創業50年の会社です。

「お客様の夢を実現すること」を第一に、お客様のご要望を実現し続けた結果、着工後の変更も多く、追加で費用を頂かない文化もあり、平均粗利が19%と業界平均よりも大幅に低粗利な体質になっていました。銀行からの評価も低く、新たな展示場出展に向けた借り入れも困難であったため、社長・営業担当者・IC・現場担当者でプロジェクトチームを組み、粗利率改善に向けた以下の方針を打ち出しました。

①企画商品開発による追加変更の廃止
②工程管理の徹底による原価削減

A社の粗利を下げている最大の理由は、着工までにすべての仕様が決まっていないことでした。 

着工後も仕様打ち合わせが続き、打ち合わせのたびに急な変更が繰り返されていました。もともと、軽微な変更の場合は追加費用を受け取らない習慣になっていたことに加え、急な変更も多いことから仕入れ時に相見積もりを取る時間もなく、価格交渉もできないという負の循環に陥っていたのです。

このような状況を改善し、適正な利益を確保する方法をプロジェクトチームで話し合った結果、「まず、オーナー様から生の声を聞こう」という話になりました。

過去1年間でお引き渡しをしたオーナー様に集まっていただき、座談会を開催。その結果、実は着工後の打ち合わせは、オーナー様にとっても負担が大きいという事実が分かりました。

「工事が進む中で、焦りながら選ぶのは精神的に苦痛」
「ゼロからすべて選ぶのではなく、ある程度のお薦の中から選びたかった」

などの生の声を生かし、オーナー様自身が勧めるベストプラン・ベスト仕様をまとめた企画商品を完成させたのです。その結果、着工前にすべての仕様が決まるようになりました。

追加・変更がなくなっただけでなく、打ち合わせ回数が激減しお客様の満足度も上がりました。 

さらに、今までは追加・変更を前提にして工程管理をしていたのが、追加・変更が一切なくなったため、施工期間が20日間も短縮。業者への支払いも減少したことから粗利率が6%改善し、平均粗利率25%を達成できるようになりました。

■ 財務内容改善取り組み事例

移動式展示場モデル依存から脱却し広告費の圧縮に取り組んだB社

B社では、長年集客を移動式展示場に頼っていました。移動展示場の完成時にオープンチラシを入れるだけで十分な集客量があり、また展示場の売却もスムーズに行っていたことから、銀行からの評価も良好。借入資金で3ヵ月に1棟ペースで出展し、3ヵ月以内に売却を繰り返してきました。

しかし、リーマンショックを境にチラシからの集客が大幅に減ったことや、移動式展示場の売却が以前のようにスムーズに行かず、不良在庫化したり値下げをした結果原価を割ってしまうことから、大幅なビジネスモデルの変更を余儀なくされました。

B社では、営業メンバーを中心としたプロジェクトチームを立ち上げ、広告費を圧縮する方法として以下の方針を打ち出しました。

①オーナー様からの紹介比率アップ
②チラシからWEBへの広告予算変更

B社は、もともと地域での知名度があり、満足度の高い家づくりをしていたため、お引き渡し後のオーナー様アンケートの満足度が92%と高い満足度を誇っていました。ところが、契約に占める紹介比率が10%と、非常に低い状態でした。営業メンバーでの話し合いの結果、「今まで紹介のお願いをしたことがない」ということが分かり、まずは1ヵ月間で紹介をお願いして回りました。

オーナー様は好意的に「いい人がいたらいつでも紹介するよ!」とおっしゃってくださいましたが、何ヵ月経っても一向に紹介が出てきません。もう一度、オーナー様にお話を聞きに回ると、「探しているけど、どんな人を紹介していいのか分からない」との反応。「最近結婚した人、子どもができた人」など特定依頼を実施することにより、紹介を頂くことができるようになり、その後も1年間のプロジェクトで継続的に改善を重ねた結果、紹介比率が10%から35%に高まりました。

そのタイミングで、今までチラシに頼っていた集客を見直し、チラシを一切廃止しました。インターネットからの集客に切り替えたところ、1組集客あたりのコストが1万円と一気に改善したことから、広告費の圧縮にも成功しました。同時に銀行との関係性も改善したのです。

■ おわりに

財務視点の改善事例の内容はいかがでしたでしょうか。私自身、経営コンサルティングの現場で多くのプロジェクトのお手伝いをさせていただいておりますが、「受注棟数」や「集客数」などの目標設定はなされているものの、『財務』の視点での目標設定をされている企業様に出合うことはごくまれです。

産業是全体が伸びている時期であれば、『財務』を考えた経営をする必要はなかったかもしれません。しかし、産業が縮小する中で企業の永続を考えると、『財務』の視点は必要不可欠になります。

元銀行員である私の経験では、産業の縮小期に「下りのエスカレーター」に乗りながら財務改善に取り組む難易度は高く、成功率は極めて低くなります。皆さまにはぜひ、駆け込み需要を利用して、「上りのエスカレーター」に乗りながら『財務』改善にお取り組みいただければと存じます。

コラム内ではお伝えできなかった住宅・不動産事業における財務指標につき、レポートをお読みになった方限定で、お見せできるものがいくつかございますので、ご興味をお持ちになった方は、是非お問い合わせください。

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