「市場縮小」×「寡占化」する住宅市場
まず、われわれが捉えなければならいのが、今後の市場規模の変化です。さまざまな研究機関が今後の市場規模を予測していますが、ある研究機関では、2030年には新設住宅着工戸数には55万戸まで大幅に減少すると予測されいます。
さまざまな優遇施策等を勘案すると、あまりにも悲観的な値ではないかと感じられた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、お客様や社員の将来を預かっている経営者・経営幹部である以上、将来を悲観的に捉え、起こりうるリスクに対して、どんな手を打つのかを考えることが、今より強く求められています。
仮に何も対策を取らなかった場合、どのような未来が待っているのかという事例が家電メーカー大手3社(パナソニック・ソニー・シャープ)の現在の業績になります。
家電エコポイント制度や地上デジタル放送移行に伴う買い替え需要に甘え、市場が急速に縮小するという未来は見えていながらも、改革を遂行できなかった3社は、2012年3月期決算に続き2013年3月期第2四半期決算でも巨額の最終赤字を計上し、大規模なリストラや事業再編、工場閉鎖などに追い込まれ、最終的には従業員や下請け企業、そして株主にその皺寄せがいっています。
また、われわれが認識しなければならないのが、市場縮小時に起きるお客様の行動の変化です。
不況時には、お客様は倒産リスクを考え、倒産リスクの少ない会社や信頼できる会社を選ぶ傾向が強くなります。そのため、不況時には寡占化が加速する傾向が見られます。
▼各部道府県のトップビルダーのシェア推移(着工数及び)
実際、2008年に起きたリーマンショック前後で比較すると、各都道府県のトップ10ビルダーのシェア率は、15.8%から17.5%へと「1.7%」高まり、トップ企業による寡占化が進みました。その後もトップ10ビルダーのシェア率はあがり続け、2014年度には「19.3%」にまでシェア率は高まっています。その裏では「50棟未満」の住宅会社が淘汰されているという結果もデータで確認することができます。
▼ 規模別持家業者激少率(2005〜2008年)
駆け込み需要後の市場では、エリア内でトップ10の企業へ人気が集中し、寡占化が加速することとなり、シェア10位未満の企業の生き残りが厳しくなってきます。
今回の駆け込み需要後にもリーマンショック時と同様に市場縮小が進み、寡占化が進む中で、どのような戦略を描き、先手を打つのかが、今、経営者に問われています。
時代の変化を表すキーワード
今後の戦略を考える上で、時代の変化を押さえるキーワードを挙げると、
1.限界シェアの追求
2.ハイスピード・マネジメント
3.流動性
4.ライフタイムバリュー(LTV)の最大化
の4つが挙げられます。
それぞれのキーワードについて事例を交えつつ、ご説明していきたいと思います。
1.限界シェアの追求
今後の市場縮小と寡占化という2つの流れを捉えると、「限界シェア」を高めるという考え方が必要になります。
「限界シェア」とは、エリアシェア20%を超えた状態を指します(都道府県レベルでは7%)。 限界シェアを達成する上では、エリアで住宅購入を検討する全てのお客様と接点を持つことが大切になります。
言い換えると、限界シェアを達成した状態では、住宅購入を検討するお客様が、最初に自社に来店する確率が高まり、結果として自社で決まる率が更に高まるという好循環を生み出すことができます。
これを実現しているのが、前号の「3年後の集客戦略を描く」でも取り上げたF社になります。F社は展開7エリアの中で2つのエリアで限界シェアを達成しています。
この状態を実現することを可能にしたのが「限界集客」への取り組みです。「限界集客」とは、集客チャネルの多角化を図り、単一エリアで限界まで集客効率高めることを指します。
前コラム「未来の顧客から選ばれる集客戦略」でもご紹介しておりますので、詳細は前コラムに譲りますが、F社では、限界集客を実現するために従来のマーケティングの中で実施してこなかった、もしくは弱かった以下の3つの集客ルートの改革に乗り出しました。
・潜在客マーケティング
・中立ポジション
・自己開拓比率の向上
▼ 限界集客の考え方
「潜在客マーケティング」では、子供服のつかみ取りやベビーマッサージなどのイベントで住宅購入に関心を持っていない潜在客を集めています。結果として、従来であれば接点を持つことができなかったお客様と接点が持て、
・競合のいないお客様名簿の入手
・好感形成による口コミ協力者化
・将来の顧客としての囲い込み
を実現する事に成功しました(もちろん、住宅への関心を高める情動の仕掛けを事前に組むことで顕在客化にも取り組んでいます)。
また、インターネット集客においても自社のブランドサイトだけでは接点を持てない層に対して、自社の名前を冠さない「不動産web(「●●市の不動産情報館」等)」といった中立的なレスポンスサイト(反響サイト)を展開している7つのエリアで取り入れ、お客様の反響の入口を増やすという対策を打ちました。
そして、会社がチラシやwebによる集客に責任を持つだけでなく、営業マン自身に、紹介営業や飛込み営業などによる「自己開拓比率」という目標を持たせ、評価基準に加えるという動きも行いました。
自己開拓比率を明確化することにより、
・通常ルートの接客に対して真剣に取り組む
・紹介営業などの仕組みの積極的な活用
といった効果が生まれ、一客を大事にする文化が生まれ、契約率の改善も図られています。
これらの取り組みのおかげで、F社は展開7エリアの全てで、着工戸棟数ランキングで1位を獲得し、2位の会社と比較して2倍以上のシェアを獲得しているのが4エリアという状況を作り上げています。
「限界集客」を実現する上でのさまざまな集客手段については、前号を参考にしていただき、自社が取組めていない領域を明確にしていただけたらと思います。
2.ハイスピード・マネジメント
成長企業とそうでない企業の大きな違いは、意思決定と実行のスピードにあります。
多くの企業では、社長や幹部が自ら、現場に足しげく通ったり、社員と食事に行くなどの直接的なコミュニケーションを取ることが現状を把握する上でのポイントでした。しかし、メンバーの増加やエリア拡大に伴い、コミュニケーションコストが増加するため、すべての現場を押さえることが難しいというのが、多くの企業が抱える悩みでした。
しかし、ITインフラの進化と共に、管理体制や情報共有の方法も大幅に変わり、コミュニケーションコストの大幅な削減が可能となったのが現在です。
例えば、社内コミュニケーションツールである「Talknote(トークノート)」「Chatter(チャッター)」「LINE」を始めとしたSNSを活用した管理体制などの事例も多く出てきています。その結果、距離によるマネジメントの限界が弱まり、組織の改善スピードや意思決定スピードのアップが可能になりました。
その端的な例がA社になります。A社では初回接客の内容や契約までのステップの標準化が徹底されている会社となります。
そのA社がハイスピード・マネジメントを実現するために取り組んだのが、クラウド上に全案件の進捗を正確にアップさせることでした。部下の入力ができていないのは上長の責任という強い姿勢で臨み、正確に入力させることで店舗毎や営業マン毎にステップアップ率の差異や活動のスピードをチェックする体制を徹底して行いました。
その取り組みの中で、成功している店舗や個人の手法の「共有化」が可能な状況が生まれ、会社として店舗間やメンバー間の積極的な交流を促す場として店舗交流会などを行うことで、1人当たりの年間の受注棟数が「180%アップ」という状況を生み出すことに成功しています。
A社の成功ポイントは「営業の標準化」というベースがあった上で、「情報入力・管理の徹底」に基づく強固なマネジメント体制が機能し、素早く課題を発見すると共に、成功事例や成功パターンを発見した上で、最後は「アナログな形でノウハウ共有の機会創出」を進めたというところにあります。ですので、単純にシステム化をすれば良いという訳ではなく、最新のIT技術を駆使することで、課題発見と対策立案から実行レベルのスピードをアップすることを実現したということですから、くれぐれも誤解のないようにお願いいたします。