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アフター事業を黒字ストック事業に変えるポイント(後編)

4 「長期メンテナンスプログラム」がアフターマーケット収益化の鍵

さらに、ストック事業で収益を上げていくためには、定期点検を100%やり切るだけでは不十分だ。お客様に将来必要となるメンテナンスやリフォームを、自社に依頼していただくための仕組みが必要である。

大手ハウスメーカーはこの点を上手く仕組み化していて、短いところでも30年、長いところでは60年のアフターサービスを約束している。ただし、これらのサービスを無償で行っているわけではない。例えば、一定年数ごとに、部品の交換や防水塗装など必要な修繕を有償で行ってもらうことを条件に、躯体の保証を延長し、定期点検サービスも継続している。このようにしてお客様との関係性を維持し、メンテナンスをすることのメリットを提示しながら必要なメンテナンスを必要なタイミングで実施してもらうといった自社での囲い込みに成功しているのだ。実際、大手ハウスメーカーで建築したお客様の殆どは、建ててもらった会社にメンテナンスやリフォームを依頼している。

あるいは、地域密着型の住宅会社においても、OBのお客様との顧客接点の維持のために、有料の会員制度を導入し、提案している会社もある。例えば、一定期間の定期点検訪問サービスが終了した後も、「24時間365時間」緊急対応窓口サービスや、定期点検の継続、設備や家具等の割引販売などの特典を付けた会員サービスを提供している。中には、網戸の張り替えサービスを付与したり、はしごや工具の無料貸し出しといったユニークなサービスもある。会費は概ね年間6,000円(月額500円)から10,000円程度で設定しているケースが多く、この程度の負担で「安心」と「便利」が買えるとあってお客様からも好評だ。

まず整えるべきは「長期メンテナンスプログラム」の構築

こうした仕組みを自社で取り入れることは可能だ。30年程度のメンテナンス計画を策定し、お客様と共有し、必要なタイミングで適切な提案をしていけばよい。図3は実際にある住宅会社で策定した長期メンテナンスプログラムの事例であり、「部位ごとの保証期間」「定期点検のタイミング」「何年目にどのようなメンテナンス(修繕)が必要か」を一つにまとめたものだ。

長期メンテナンスプログラムをお引渡しのタイミングでお客様に説明することで、メンテナンスの必要性と、自社にメンテナンスを任せることの意味を感じてもらうことができる。結果として、とても適正とは言えない金額を突きつけるような飛び込みセールスのリフォーム業者に大切なお客様を奪われずに済むのである。

参考までに、弊社のクライアント先で築10年前後の新築OBのお客様1,000件に対して、住まいに関するアンケート調査を行ったところ、400件程度の返信があり、そのうち、「何かしらのリフォームを実施したことがある」と答えた方は35%いらっしゃった。(グラフ2参照)ただ、自社にリフォームを依頼してくれた方は9%に過ぎず、残りの26%の方は他のリフォーム会社に依頼をしている、という実態が明らかになった。また、33%の方は近い将来、何かしらのリフォームをしたいと考えているということも分かった。長期の顧客接点を持ち続けることで、これらの自社が取りこぼしてしまっているリフォームニーズを確実に獲得していくことが望まれる。

お金の問題を解決する

さらには、構造躯体や設備等の「保証延長制度」や「短期メンテナンス保証」など、将来発生するメンテナンス費用を新築時に預かっておく「メンテナンス信託制度」などを組み合わせることで、お客様の囲い込みの精度をより高めることも効果的である。

参考までにこれらの保証サービスを簡単にご紹介させていただく。

情報管理の仕組みを構築する

併せて必要不可欠なのが、情報管理の仕組みである。どのお客様が、いつ、どのようなメンテナンスが必要かを適宜把握することは、アナログの仕組みではかなり難しいと言える。折角お客様に長期メンテナンスプログラムを提示できたとしても、その後のフォローが全くなければ何の意味もなさない。従って、適切なタイミングでお客様をフォローし、働き掛けをしていかなければならない。また、タイミングだけでなく、お客様ごとの建物情報やメンテナンス履歴、あるいはお客様との接触履歴などもきちんと管理をしていく必要がある。建物情報が紙ベースでしかない会社の場合、その都度、図面や仕様書を探し出して調べるという手間が発生する。また、いつ点検を実施し、どのような修繕を行ったかといった情報がメンテナンス要員の頭の中にしか残っていないような状態では、お客様に適切な提案をしていくことは難しい。

今やこれだけITが発達し、クラウドコンピューティングで情報管理が可能なサービスも充実してきているので、アフターメンテナンスの活動に適した顧客管理・建物管理システムを導入していくことも必要な対策と言える。

5「定期点検業務」をアウトソーシングするという考え方はありか

住宅会社の中には、メンテナンス要員の確保が難しいことを理由に、点検業務をアウトソーシングしたいと考えているケースもあるだろう。しかし、結論から言えば「ストック事業」を本気で取り組むなら点検業務そのものはアウトソーシングすべきでないと考えている。

第一の理由として、アウトソーシング費用と内製化費用を比較したときに、どちらが得かということである。例えば、築2年以内のストックを150件抱えている会社のケースを考えてみたい。2年以内の点検訪問は、概ね「6ヶ月点検」「1年点検」「2年点検」の3回程度行う会社が多いが、ここから「総点検訪問回数」を算出すると、150×3回/件=450回、となる。これをアウトソーシングした場合、だいたい1回あたりの点検代行費用は15,000円程度なので、15,000円/回×450回=6,750,000円となる。

一方、自社のメンテナンス要員の場合、メンテナンス業務を仕組み化することで1人あたり月40件ほど回ることが可能なので、年間480件ほどの点検業務が可能ということだ。2年以内のストックだけなら450回の点検が必要な上記のケースで言えば、一人工分のメンテナンス要員で対応ができることになる。メンテナンス要員一人あたりの人件費と、アウトソーシング費用675万円を比較したときに、どちらの方がよりコストが掛かるか、ということだ。さらに言えば、自社のメンテナンス要員の場合は、点検業務以外のトラブル対応等もこなしながら活動するわけなので、生産性の違いは一目瞭然である。

第二の理由としては、お客様からの印象の違いが挙げられる。定期点検に来てくれることへの満足度という点では違いはないものの、社内のメンバーが対応する場合と、外部の会社が対応する場合とでは、ロイヤルティの向き方は大きく変わってしまう。社内のメンバーが直接お客様と接するからこそ、お客様は会社に対してロイヤルティを向けてくれるのであり、それが先々の有償メンテナンスやリフォーム受注に影響してくることは想像に難くない。

さらに言えば、「建てた後のことは完全に外に投げてしまう」という発想は、自社の施工品質の向上や商品開発力を損なう要因にもなりうるだろう。一番面倒な部分としっかり向き合うからこそ、改善意識が生まれるというものだ。アフターサービスを内製化するかアウトソーシングするかという問題は、住宅事業に対する経営方針とも関わってくることなので、安易に決めるのではなくじっくりと考えてみていただきたい。

6ストック事業の確立に向けて

これまでご紹介してきたような「攻めのアフターサービス」に転じるための対策について、ポイントを改めて整理しておきたい。

ここまで実現できたら、間違いなくクレームは減少し、無駄な無償メンテナンスコストは削減され、お客様の満足度も大きく高まることだろう。結果としてそれが、新築事業に対してもプラスの影響を与えることになる。営業担当者は自社のアフターサービスについて自信を持ってお客様に話ができるので、大手ハウスメーカーに「アフターサービス」の良し悪しで負けることはなくなる。また、お客様の満足度が高まればよい口コミが広がり、ご紹介の増加や、口コミ集客が増えることになる。実際、アフターサービスへの信頼からお引渡し後の満足度が高まったことで、お客様への紹介依頼もしやすくなり、OBのお客様からの紹介比率が全体契約数の3割を占めるほどに高まった会社もある。

中長期的には、リフォームや住み替え、建て替えの獲得にも繋がっていくだろう。お客様は、大切なマイホームをしっかり維持管理してくれる会社に信頼を寄せ、リフォームのニーズが発生した場合には、真っ先に相談をするであろうし、もっと言えば、顧客接点を持ち続けることで、こちらからもタイムリーにリフォームを働き掛けることができる。定期的に「メンテナンスセミナー」や「リフォームイベント」を実施して、そこに集客することでメンテナンスの依頼やリフォームニーズを喚起する方法もある。

住み替えや建て替えに関しては、さらに長いスパンになると思われるが、新築事業者の中には中古再販事業を強化していきたい会社も少なくないだろう。比較したときに、真っ先にターゲットとすべきは自社の新築OBのお客様であり、自社で建築しメンテナンスし続けた住宅であれば、建物診断をせずとも安心して買い取ることもできる。また近い将来、建物のメンテナンス状況が不動産査定の基準に盛り込まれるようになることからも、メンテナンス履歴を有しているお客様の売却のお手伝いは、圧倒的に自社が優位に立てることは間違いない。今やセカンドライフは都市部のマンションに住み替える、といった暮らし方も一般化し、ライフステージに応じて住み替えをする人が増えていることを考えれば、住み替えサポートに注力することもまた、一つのビジネスチャンスと言えるだろう。

「ストック事業は儲からない」という発想を転換し、「儲かるストック事業を確立する」ための対策を考えてみてはどうだかろうか。まずは手始めに、どのくらい無駄なコスト(無償メンテナンスコストの負担)が発生しているか算出してみることをお勧めする。「儲かる」以前に「流血(コストの持ち出し)」を止めることが先決だからだ。1,000万円のコストの削減は、1,000万円の営業利益の獲得と同等の価値であり、新築の受注に置き換えたときに何棟分になるのかを考えてみていただきたい。アフターマーケットにこそ、ビジネスチャンスは眠っている。

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