■ 昨今の住宅業界
外部環境が厳しい中で、多くの住宅会社が新しいチャレンジをして、現在の苦境を乗り越えようと工夫をされているところと存じます。
しかし、一向に契約率は上がらない、また契約までのリードタイムが伸びてしまうため、競合に奪われてしまうことも決して少なくないのではないでしょうか。実際に、契約ベースでは、昨年対比で50%程度の実績しか出ていないというようなお話も良く伺います。
このような状況をどのように打破するか。今回のコラムでは、同じ住宅業界の成功企業の事例ではなく、他業界であるブライダル業界での成功企業からそのヒントをお伝えさせて頂きます。
■ ブライダル業界と住宅業界
ブライダル業界においても、環境変化で住宅業界と同じような影響を受けておりますが、そのような中でも、営業上の工夫を取り入れることで、契約率を高め、契約数を維持、ないしは拡大している会社が幾つか存在します。
そもそも、ブライダル業界と住宅業界は非常に類似性が強いと言えます。
例えば、下記のようなことが言えます。
① 一生に一度の商品であること
② 女性客の影響が強いこと
③ 高価な買い物のため、お客様の期待値が高いこと
また、2つの業界では共通した流れがあります。
時代の流れとともに、住宅業界は家を作る製造業から住宅に付随したコンテンツを提供するサービス業へと変化してきました。そして、現在はホスピタリティ業への変化が求められています。
ホスピタリティとは、「おもてなし」という意味ですが、現在は、このホスピタリティ力によって他社との差別化を図る住宅会社が増えてきています。こうした背景から現在のお客様は住宅購入までの高いホスピタリティを求めるようになってきています。
実際、ホスピタリティ力によって、お客様の購買熱を上げ、即決頂くことが可能になり、契約率向上やリードタイムの短縮につながっています。
では、ホスピタリティがどのようにお客様の熱を上げ、即決に導いているのかを見ていきましょう。
■ ブライダル業界のホスピタリティ力
ブライダル業界は、住宅業界よりもいち早く商品やサービス面の価値だけでは差別化が出来なくなっていると共に、住宅業界以上に女性客の影響が強いため、ホスピタリティ力がより強く求められている業界であると言えます。
このブライダル業界で成功している企業においては、契約率の中でも、即決率(初回接客の当日の契約頂く率)を重視している傾向があります。
なぜ、初めての購買商品にもかかわらず、即決をするかというと、一言でまとめると、「感動買い」です。
お客様にとって結婚式は、一生に一度の経験である中で、大半の方がゼクシィという結婚情報媒体を読んで、いくつかの結婚式場を検討します。どのお客様も慎重になる、一生に一度の大切な結婚式場選びを、どのようにして即決に導くのか。
ブライダル業界で成功している企業の特徴として、以下のような点が挙げられます。
① お客様を感動させるための仕掛け・仕組みがきちんと構築されていること
② お客様が来場してから帰る瞬間まで、営業の担当だけでなく、会社全体で接客をしていること
③ お客様の感動作りのために、感動接客に取組んでいること
3つのポイントを聞いてみると当たり前じゃないかとお考えになる方もいらっしゃると思いますが、実際にどのレベルで実践しているか、ご紹介していきたいと思います。
■ ブライダル業界の7つのコンテンツ
今回の「7つのコンテンツ」は、ブライダルのプロが実際に住宅現場に何度も足を運び、是非参考にして欲しいと思い作成したものです。
実は、最初に住宅業界を見た時に、結婚式よりも高価なものを売っているにもかかわらず、ホスピタリティ力が低いと感じたのが、率直な感想です。
そこで、類似性が高い業界だからこそ、幾つかのブライダルの事例を活かしたら、住宅会社の営業力強化に効果があると思い、コンテンツを7つ、整理させて頂きました。
今回の7つのコンテンツを参考にして頂ければ、お客様の購買意欲を高めることが出来、それにより住宅営業においても即決を導き出せるヒントにして頂くことが出来るかと存じます。
契約率も上がり、リードタイムも短くなれば、現在の危機を緩和出来るのではないでしょうか。では、その7つのコンテンツをいよいよ発表して参ります。
本コラムでは、この7つのコンテンツのうち、2つをご紹介いたします。
1.女性の拒否権を発動させない接客
2.イメージを創り上げる空間プロデュース
3.体感型のプロデュース
4.サプライズ体験による期待値アップ
5.お客様と一緒に作るテーマプロデュース
6.「あっ」っと言わせるお客様への接し方
7.ストーリープロデュース
事 例①イメージを創り上げる空間プロデュース
― 空間プロデュースとは ―
空間プロデュースとはいったいどのようなものかというと、見学会の際に、お家を従来の案内よりも「ステキ」に案内するということです。
具体的なやり方としては、お家を案内する前にどのようなコンセプトで作られたお家なのかを伝えてから案内をします。例えば、現場見学会ならば、なぜこのような玄関なのか、なぜこのようなリビングなのかなど、全てにお施主様のストーリーがあると思います。それらを事前に伝えるということです。
事前に伝えると伝えないでは、お客様の期待感は大きく変わります。事前に話をすることで、お客様がお家を見たいというワクワクに変えることが出来ます。
もしかすると、そんなことうちもやってるよ!と思われたかもしれませんが、本当に現場でやりきれていますでしょうか。
自社のお勧めの間取りを提案したお客様から、間取り変更の要望が多数出たり、間取り打ち合わせが長くかかってしまっている等の問題が起こっている場合は要注意です。自社の間取りの価値を訴求する空間プロデュース十分に出来ていれば、上述のような問題は起こりにくくなるはずです。
それでは、これよりブライダル業界の中でも即決を多く出している会社が、どのような空間プロデュースをしているかをご紹介していきます。
― ブライダル業界 ―
ブライダル業界では、どのようにして会場案内をするかというと、案内前にお客様のニーズを10分程度で把握します。
その後、例えば、チャペルの案内をする際に直ぐに扉を開けるのでなく、扉の前でチャペルがなぜここに建っているのか、どのような思いで建てたのかを伝えます。
更に、お客様のニーズに合わせてチャペル扉の前で、バージンロードの長さ、幅、ステンドガラスの由来、天井高、扉の材質、移築の話などを伝えます。チャペル前の事前説明だけで、5分程度の時間をかけています。
では、なぜそこまで時間をかけてチャペルに入る前にこだわりを伝え、実際のものを見てもらうのかというと、事前に説明したところ、すなわち自分たちの強みに目がいくようになるからです。
それだけでなく、事前にストーリーを伝えているため、「だからこういう作りなんだ」と強い共感を得ることも出来ます。
もし、先にストーリーの説明をせずに案内をするとお客様が浅い理解のまま、自社の本当の強みやこだわりを理解しないまま帰ってしまうことになります。
空間プロデュースとは、相手に空間とその意味合いを紐づけることにあるのです。
― 女性の価値観 ―
ここまで、ストーリーの重要性を説明してきましたが、なぜそれが効果的であるかを考えてみたいと思います。
こんな経験はないでしょうか。日頃の感謝を込めて、相手の女性の方と旅行をすることになりました。相手の女性の方から、どこに行きたいと質問を受けたときに、どのようにご返答しますか。
例えば、「君の行きたいところで良いよ」と伝えたところ、相手の女性の方は怒ってしまいました。いったい何が悪かったのでしょうか…。
実は、男性にとって旅行は当日の朝からスタートになると思いますが、女性は計画段階からスタートすると言われています。
つまり、女性は旅行当日までにどのような計画にするかなどイメージをすることが好きなのです。そして、先ほどのブライダル業界がストーリーを話す意味合いは、チャペルに入るという体験前に、ストーリーを伝えることで、旅行前の計画と同様にイメージ醸成を促しているのです。
― 住宅業界の取組み方 ―
事前に説明することが、空間プロデュースに繋がることはご理解頂いたと思います。ではここからは、住宅業界においてどのように活かしていくべきかを考えてみたいと思います。
今回は完成現場見学会で検討したいと思います。 完成現場見学会でお客様の受付が終わった段階で、来場きっかけなどを5分程度でヒアリングをし、ニーズを確認します。そして、お家の扉前でストーリーを説明します。
具体的には、お施主様がなぜこの場所でお家を建てたのか、どんなコンセプト・思いを持っていたからこのような外観、これから見る内観になったかを説明します。大切なことは、打合せを重ねていきながらどのようなストーリーを創り上げてきたかです。そして、ストーリーを説明した後に、扉を開けて案内するから共感が得られるのです。
当然こだわりの各所では再度ストーリー仕立てで説明することで、強い共感を創り上げます。
このような案内をしようとすると、決してお客様がお家の中で、先に歩きながらの案内にならないことはご理解頂けると思います。実際に、お客様が前を歩いて、営業が後から追いかけていく光景をみます。これではお客様の強い共感など生まれることなく、自社のこだわりに対しても浅い理解で終わり、購買熱も上がらないまま帰ってしまいます。
空間プロデュースとは、自社のこだわりを、事前ストーリーを挟むことで、強い共感を創り、こんなお家を一緒に創りたいと思わせることなのです。