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成長スピードを加速させる人事評価制度 ~歩合評価というシンプルな評価制度で本当に成長戦略は描けるのか〜(後編)

■先進的な企業の歩合制度

ここで、茨城県のC社の歩合制度を紹介します。参考にしたいのは歩合制度のデメリットをどう解決するか、また、企業の仕組み化の度合いに応じて、歩合が適切に設定される仕組みをどう構築するかです。

C社は、徹底的に分業化を進めた会社です。営業の提案を助けるCADオペレーションの設置、土地付け部門の設置、後工程におけるインテリアコーディネーターの設置、過去の図面をすぐに検索できる検索システム等、営業が契約業務に集中する為に、徹底的に仕組み化を進めています。

まず、その企業がやった取り組みの一つが、「中期的な成長意欲が希薄に」という歩合制度のデメリットを解決する為に、店長等の役職者の評価を個人業績ではなく店舗業績に連動する形にした事です。また、それだけだと、最後は店長が自ら数字をやって店舗業績を達成させてしまう為、営業メンバーの達成状況も店長の給与に反映される形とし、人材育成が給与額に直結する形にしました。

さらに、「環境要因の影響が比較的大きい」という歩合制度のデメリットに対しては、8項目からなる評価項目で店舗の力を評価し、例えば、集客力が強い店舗の1棟よりも、集客力が弱いの店舗の1棟の契約を高く評価するという制度構築を行い、対応しています。また、全国トップクラスの営業生産性を誇る会社ですので、制度改革の際に年間契約が12棟以下だと、歩合を下げるという基準を設定しているのも、C社の特徴の一つと言えるでしょう。

結果としてC社は、若手人材の早期戦力化を実現し、店舗の力量や会社の力量を踏まえて歩合制度を構築する事で、労働分配率を適正に低く抑え、高収益体質を実現させる事ができました。

C社は、営業生産性を高める方法の一つとして歩合制度をうまく活用した会社でしたが、会社の力量の変化に応じて歩合の金額を変動させたり、人材育成を歩合評価の対象にうまく組み入れたりする事で、歩合制度のデメリットを最大限抑制する仕掛けをしていた事が分かります。C社の事例のように住宅会社やモデルハウスの力をどう評価して、どのレベルまで払うのかという基準を設定する事が大切になります。

■リーダーを育てる会社、つぶす会社の違い

評価制度の機能である「理念による行動を社員にうながす効果」、「何をやれば評価されるかを明示する事で、社員の行動をうながす効果」について考えてみましょう。多くの住宅会社が歩合制度に頼り、この側面で評価制度をうまく機能させられている会社はまだまだ少ないのが実情です。「社員がもっと考えて動いて欲しい」、「部長なんだからもう一つ上の目線で判断してほしい」と社員のリーダーシップに対して、不満を感じている経営者は少なくないのではないでしょうか?

社員が自ら考えて行動してリーダーシップを発揮する為には、社員が理念やビジョンに基づいて自ら判断して行動できる環境が整備されている事が必要です。しかし、通常の場合は、社員が自ら判断して行動してよい範囲が明確に示されていません。理念やビジョンがあったとしても、抽象的で社員は何をどこの範囲までやったらいいのかが分からないのです。

経営者側にも事情がないわけではありません。外部環境の変化に応じて、時には朝令暮改のスピードで経営の意思決定を変更しなければなりませんし、経営者が感じている内容を理念や事業計画に明確に示す為には、相当な時間とコストがかかってしまいます。経営者と社員とでは持っている情報の量と質が違います。

また、中小企業における経営者がおかれた立場も一つの要因と言えます。下の図を見てください。

大企業の場合は、社長は、一般社員から、主任、課長、部長を経て社長になる事が多く、それぞれの役職が、どのような責任があり、何をしなければいけないかを経験し把握しています。一方で、中小企業の場合は、多くの社長が、全ての部門の主任、課長、部長を経験することなく、独立して経営者となっているケースが多く、事業立ち上げ時期はともかく、組織が拡大した時に、主任、課長、部長の役割や責任が分からない事が多いのです。

その為、社長が部長や課長が果たすべき役割が分からず結果として、その役職以上の難易度の高い役割を期待してしまったり、また、部長や課長がどんな責任をもって、何をしなければならないのか分からないまま、組織が拡大してしまい、組織がうまく機能しなかったりする問題が発生してしまうのです。結果として、部門間連携の悪化や、業務をこなすだけで成果をあげる為に自ら考える事ができない組織風土といった問題につながります。

■成長企業の評価基準を作る難しさ

評価制度をうまく設計する難しさはもう一つあります。それは、人事評価が機能する前提条件が、特に成長企業においては当てはまらないという事です。

その為、流動的に対応するために評価制度を組む際に、毎年の目標の達成状況から評価をしようと考えます。市場に出ている書籍で中小企業向けの書籍を見てみると、そもそも理念構築、事業計画の立案をしましょうという話になっているのはその為です。確かに、原則論としてそれは理解できます。しかし、毎年、きちんとした目標設定を行いそれを個々の社員の目標にまで落とし込み、達成状況を評価するというのは、かなりレベルの高い話であり、制度はあるものの、うまく運営ができない住宅会社が多いのが実情です。ましてや評価制度を作るのに、理念策定や、事業計画からとなると、大変な時間が必要になります。

成長している会社においては、評価項目を決めても、すぐに現状と合わなくなってしまったり、評価項目にない行動に関しても社員に期待しなくてはならなかったりするケースが発生してしまいます。

歩合制度のデメリットである「中期的な成果意識が希薄に」を補う為には、評価制度の機能である「理念による行動を社員にうながす効果」、「何をやれば評価されるかを明示する事で、社員の行動をうながす効果」を発揮できる制度構築が必要なのですが、それを構築する為には、主任、課長、部長が何を果たすべきなのかを明確にする事と、企業が成長して主任、課長、部長の果たすべき役割が変わった場合でも対応できるようにする事の2つの難点を解決できないといけないという事になります。

■住宅会社の営業、設計、工務に共通して求められる内容

上記の2つの難点をどう解決するかを考えた結果、一番シンプルな方法は、すでに規模が拡大している住宅会社の、営業、設計、工務の優秀な役職者を探して、何をやっているのかをインタビューする事だと考えました。

理念や、商品に多少の違いがあっても、住宅会社とは、「より多くのお客様に、より良い家を提供する」という点で共通しています。その為、営業、設計、工務の各部門の役職者が果たすべき内容を、先進的な企業のやり方から学ぶ事ができると考えたのです。

そこで、クライアントを含めて、優秀と評される役職者にお時間を頂いて、各部門が果たすべき機能は何か、その中で各役職者が何を果たすべきかに関して、ディスカッション形式でインタビューを行いました。

インタビューした結果見えてきた、営業、設計、工務の役割の一部を見てみましょう。たとえば、売上管理に関する営業職の役職者の役割の違いは次の内容です。

部 長:今期の売上達成に向け、契約だけではなく、後工程の負荷状況や、着工枠などを配慮した組織の運営ができる
課 長:売上達成の進捗管理ができ、達成が難しい場合は、自ら達成の為のアクションプラン(挽回策)を検討し、実施できる
主 任:売上達成に向けた動き方、考え方を伝え、執着心をもって目標に取り組む事の重要性を伝える事ができる

続いて、工務の工程管理に関しては、役職者の役割は次の内容です。

部 長:会社の目標棟数の達成に必要な資源確保(業者や監督人数、監督補助の設定など)が実施できる。監督の生産性をあげる為に、前行程の営業や設計と交渉し、業務フォローが組める。新技術の導入より、工期短縮できる
課 長:チームが担当している各工程状況を把握し、遅延の場合に対応するだけでなく、事前に問題発生の抑制の動きが取れている工程の短縮や見直し、標準現場訪問回数等の改善ができる
主 任:標準的な工程に則って適切な工程管理の方法を部下に教えることができる。必要に応じて、前工程に対して、納期意識や契約の仕方に対して注意を喚起できる

最後に、設計のヒアリングに関しては、役職者の役割は次の内容です。

部 長:必要なヒヤリング内容を整理し、営業部に教育する事ができる
課 長:プランヒアリングの精度をあげるための標準化ツール(ヒアリングシート等)を作成する事ができる
主 任:プラン変更回数を減らすために、どのようなポイントを押さえて、顧客の要望を聞き出すのかメンバーにアドバイスできる

このように整理する事を評価制度の用語で、職能基準書と言いますが、職能基準書を作成する事によるメリットは次の内容があります。

①企業の成長を見越して、社員に対して今後求めていく 能力を明確にする事ができる
② 企業の成長や役割に応じて、評価項目の設計変更が容易にできる

■最後に

最後に制度改定のタイミングの話をして、文章を締めくくりたいと思います。まず歩合制度に手を付ける場合は、企業の成長段階である事が必須です。通常、歩合制度に手を付けるという事は、企業が仕組み化していった場合に、1棟あたりの歩合給を下げるという制度設計となります。制度改変には社員の賛同が必要になりますが、一方的に下げる話では社員に納得してもらう事は難しく、制度改革は困難になってしまいます。

ただ、企業が今後成長し、仕組みが整い、より1棟の契約を楽に取れるようになるという事であれば、社員も納得した上で、受け入れる事が可能になります。市況が落ち着いてからの制度改変では遅いのです。

歩合制度以外の、社員に今後求めていく能力を明示する職能基準書は、できれば組織化が必要になる30棟~50棟の段階で策定しておく事をお勧めします。100棟超えた際に、各部長が正しく役割を認識できていないと、部門間連携が悪化し、組織風土が悪くなる可能性が出てしまいます。早い段階で、部長職に求められる内容を明示しておく事がよりより組織風土を作る上で大切になってきます。

リーダーを育成し、今後も持続的な成長を遂げていく為に、弊社では「人事評価制度」に関する勉強会を予定しています。関心がある方は、是非足をお運び頂き、住宅会社におけるより良い人事評価制度の構築に対して、意見交換ができればと考えています。

 

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