はじめに
本コラムにおいては、仕組み化が進み生産性のレベルに他社と格段の違いがある企業が、どういった評価制度を導入し、組織づくりをしているのかに焦点を当てました。
多くの住宅会社様が導入されている歩合制度は、シンプルでかつ成果に応じて給与や賞与が決まってくる為、非常に運営がしやすい制度と言えます。ただし、仕組みが整ってくると、時代の変化によって1棟に対する営業の貢献度が違ってくるため、払う歩合が適切かという問題が生じてきます。また、歩合制度では補えない不具合が問題となって浮き上がってくるケースもあります。
本コラムを通じて、先進的な企業がどういった制度構築を行っているのか感じて頂き、今後の組織づくりの参考にして頂けますと幸いです。
住宅業界の常識が変わりつつあります。以前は、営業マン1人で、年間8棟~10棟販売していれば十分だったのが、今では注文住宅を仲介土地で、営業マン1人が年間20棟以上販売する企業も多数出てきました。
インターネットでの集客や、口コミや紹介を通じて広がるブランド効果によって、これまでの業界の生産性に対する認識が明らかに変わりつつあるのです。
もっとも、現在の住宅業界においては、それ程高い生産性を追求せずとも、拠点展開により十分な収益を実現できる事もあり、住宅会社の経営状態の違いとしては表面化していません。単純に、棟数が増えたのかどうかでみられるケースが多いのが現状です。
しかし、今後の縮小市場において継続的に成長を実現していく為には、全社の生産性をあげるという事が必須課題となります。ここ1年間で効果的な施策を打てたかどうかが消費税増税後に大きな違いとして出てくる事になります。
そして、この課題に手をつける上で必然的に発生してくるのが、営業の歩合制度に手を付けるのかどうかです。
なぜなら、インターネットでの集客効率の改善、分業化に伴う営業の役割の変化、会社が作り上げたブランド力によって、それまで営業が契約を頂いていた1棟と、今後契約を頂いていく1棟に対する営業の貢献度が明らかに変わってくるからです。以前より、良い商品ができ、良い口コミによるブランド力ができあがり、集客にも困らなくなった状態における1棟の契約に対して、同じ歩合を払うのかが問題になってきます。
もちろん、多くの経営者が感じられる点ですが、歩合制度の改革は一番敏感な部分ですので、手を加えづらい問題です。しかし、自社の将来像を描く上で、この問題を解決せずにはいられません。本レポートでは、先進的な企業の取り組み事例を取り上げながら、今後の住宅業界における評価制度の在り方を考えてみたいと思います。
■住宅業界における労働分配率
実際の歩合制度や評価制度の問題に入る前に、住宅業界の労働分配率を見てみましょう。
※中小工務店・パワービルダー:出展:第12次業種別審査事典
※100棟以上工務店:各社が公表しているデータをリブ・コンサルティングが分析
上記は、第12次業種別審査事典の数値を整理したものです。中小工務店では、労働分配率が50%強、パワービルダーでは34.1%になっています。それに対して、100棟以上工務店では、労働分配率が、30%をきってくる水準となります。
中小工務店と、100棟以上の工務店では、労働分配率を単純に比較してみただけで営業利益に5%以上もの違いが出てくる事が分かります。一方で同じ100棟以上工務店であっても、労働分配率が50%近い企業もあり、各社で大きな違いが出ています。
実際に、企業の事例で見てみましょう。福岡県のA社は、100棟の時に、人事評価制度の改革を行いました。現在、500棟以上の規模にまで拡大している企業ですが、労働分配率が、役員報酬と福利厚生費を除いて20%を切る水準となっています。
A社は、成長する段階で、歩合給等の評価制度を見直し、労働分配率の上限を決めた制度改革により、強い収益体質を作り上げたのです。他にも、給与制度以外の社員満足度向上につながる施策や店長が部下育成を積極的にやるような育成に対してのインセンティブを設定した事もA社の強みとなっています。
企業の進むべき方向に応じて評価制度をうまく組み替えている企業がある一方で、100棟を超えても労働分配率が40%~50%の水準の企業や、歩合制度の負の側面がでて店長が部下育成をせずに、自らの受注の為に活動し組織力がいっこうに伸びない企業が存在するなど、大きな違いが生じているのが分かります。
その違いはどこから出ているのか。評価制度、特に歩合制度の特徴を見ながら考えてみます。
■評価制度はそもそも必要なのか
まず、そもそも評価制度が必要なのかどうかを振り返ってみます。実際に、評価制度を構築しているコンサルタントに話を聞くと、賃金を決める上では、正直30名までの組織であれば、社長が普段の活躍を見ながら考える金額の方が、評価制度で算出する金額よりも、精度が高いと言います
住宅会社の中には、せっかく作った評価制度で算出した給与金額が社長が考えた給与金額と異なるからと次から次へと評価制度を変えてしまっている会社も存在します。そうなると社員からしても、何ができるようになったらこの会社で評価してもらえるのかが分からず、受け身の風土を作ってしまいかねません。評価制度を新設、または、改革していく上で、単に、賃金を確定するだけの意味合いであれば評価制度はいらないというという事になります。
では、規模がそれほど大きくなければ、評価制度はいらないのでしょうか。評価制度によって期待できる効果を確認すると次の4つがあります。
① 賃金の確定
② 理念による行動を社員にうながす効果
③ 何をやれば評価されるかを明示する事で、社員の行動をうながす効果
④ 採用基準
上記①の賃金の確定に関しては、規模がそれほど大きくない会社であれば評価制度の必要性は少ないと言えるでしょう。また、会社が大きく成長しないのであれば、④の採用基準もそれ程必要性があるとは言えません。
成長企業の場合は、①と④は大きな問題として出てきます。初期の人材の力に頼った場合の評価制度では、徐々に会社の仕組みやブランドができてきた時には、社員の貢献度という視点からすると不具合が出てきます。社長が「エイヤ」で決めている組織の場合は、賃金の確定は問題にはならないかもしれませんが、すでに評価制度が何らかの形であり、かつ業界の給与水準よりも高く払っている場合は、問題があります。
また、人材の採用が困難な住宅業界において、優秀な人材を採用しようと賃金を高く明示し、既存社員と中途社員との賃金バランスが崩れてしまっているという現象も、多くの企業で見られる現象です。
成長企業であるかどうか関係なく、②と③の効果に関しては、会社が評価制度を通じて効果を期待したい部分です。しっかりとした評価制度が絶対に必要かは判断がわかれる所ですが、しっかりとした評価制度がある事が企業にとって大きなプラスになる事は間違いありません。
■歩合制度の功罪
次に、評価制度の中でも大きな位置を占める歩合制度の特徴について考えてみましょう。歩合制度の特徴は、人事評価制度の説明資料等では次のように紹介されています。
歩合評価のメリットとデメリットには、住宅会社の特徴が上記の内容に端的に表現されているといってもいいかもしれません。
経営者からしてみると、会社を存続させていく上で、社員にも業績に対して責任を持って欲しいと考えますし、社員の頑張りで売り上げがあがるのであれば給与を高く払っても良いと考えます。その点で、歩合評価制度ほど、経営者の心理をうまくとらえている制度はないと言えるでしょう。
理念やビジョンを明示して社員に共感してもらい頑張ってもらったり、行動プロセスを管理して社員が行動しているかどうかをマネジメントしたりするよりも、歩合制度でやった方がどれだけ簡単で力強いメッセージとして出せるか理解ができます。
歩合制度の業績面の労働分配率を安定化させるメリット、社員管理の容易さというメリットを考えると、多くの経営者が歩合制度を導入し、歩合制度に手を加える事に、慎重にならざると得ないという事も理解できます。
一方で、歩合制度の短所にも注目しなければなりません。左の表の一つ目の「処遇が不安定」に関しては、それを理解した上で職についた社員側の責任もあるのでいったんここでは論じません。二つ目の「環境要因の影響が比較的大きい」は、前述したように住宅会社の仕組みができ上がり、常識レベルが変化した時に、個々の営業マンの努力以上に給与が上がってしまう可能性を示しています。
三つ目の「中期的な成長意欲が希薄に」というのは、店長が部下育成よりも自分の給与をあげる為に、自分の契約を優先するなど、チーム営業ができないで困っている住宅会社の状態をまさに示していると言えます。
住宅会社からよく聞こえてくる「人材育成が遅れる」「部門間の連携が弱い」等は、単純な歩合制度に頼り、組織づくりや人材育成に力を入れてこなかった事、つまり、歩合制度のデメリットに十分に対策を打てて来なかった事が原因と言えます。