前回に引き続き、海外コンサルタントが現地で直面した様々な事件・トラブルをご紹介します。
1.「二重帳簿」のリスク
現地法人が、いわゆる「節税」のために、二重帳簿を作成するケースがあります。
すなわち、海外現地法人の「実際の経営状況をあらわした帳簿」と「税務申告するための帳簿」が作成されます。
これらは現地のローカル責任者や経理担当が主体となり、「良かれ」とおもって行われています。
また、海外では二重帳簿の存在は「当然」ととらえられているケースも多く、特に中国では二重帳簿がごく普通に存在しています。
しかし、これは明らかな脱税行為であり、規則や法律に違反することとなります。
リスクは、海外現地法人にとどまらず、日本本社にまで影響するケースがあるので注意が必要です。
脱税の事例としては、以下のようなものがあります。
①売上を計上しない
・ インボイス・発票(中国における請求書兼領収書)を発行せず、売上を隠します。
②人件費水増し
・ 架空従業員の口座をつくり、架空給与を支払います。
・ 支出先は、現地法人の社長やその親族等になるケースもあります。
③販売先へのコミッション(販売手数料)
・ 販売金額の一部を手数料として売上先に渡し、経費処理します。
・ コミッションを渡す先は、会社ではなく「従業員」となっている場合があります。
この場合は、税務上は経費にできません。
④スクラップ収入の未計上
・ スクラップ販売の収入が、帳簿上計上されません。
・ 入金された資金は、「ウラガネ」として会社にプールされ、日本本社に説明できない支出に使われることがあります。
⑤在庫の過少計上
・ 在庫を実際より少なく計上することで、利益・税金は少なくなります。
・ 帳簿上の在庫は、倉庫に実際にある在庫よりも少なくなります。
この差額は、在庫の横流しに繋がる可能性があります。
上記の事例からわかるとおり、脱税・二重帳簿は単なる「粉飾」ではなく、「不正(会社の資産が不当に流出してしまう)」に繋がってしまうリスクもあります。
日本本社としては、現地法人の脱税処理を防止し、実態を正しくつかんで予想外の損失を回避することが必要です。
なお、中国では「五証合一(営業許可証、組織機構コード証、税務登記証、社会保険登記証、統計登記証の統合)」および「金税三期税収管理情報システム(関連当局間のネットワークによる情報共有が現実化、ビックデータの分析により財務データが異常な企業を発見する、など)が推進されており、脱税が発見されやすい環境となっています。
参考までですが、中国では帳簿の違法な操作により脱税した場合、過少納付した税金の50%以上5倍以下の罰金が発生します。
また、刑法上は、3年〜7年の有期懲役となるおそれがあります。
2.「ウラガネ」要求への対応
ベトナムに進出する日系企業の数は、年々増加しています。
外資規制のない事業内容であれば、ライセンスの取得はそれほど苦労せずに進められます。
ただし、設立後の会社運営段階に入ると、どんな会社(日系を含む外資企業)でも、現地の商習慣からくるトラブルを避けられません。
その代表的なものが、「ウラガネ」の要求です。
《ケース1》政府当局への対応
ベトナムでは許認可制度に従い、政府当局が各企業を管理しています。
たとえば、事業内容に関連するライセンス取得、工場稼働のために必要な環境許可・消防許可の取得、税務関連の各手続き(税金還付・税務調査の対応等)があります。
その際、法律に従って手続きを行っても、一向に進まないケースがあります。
こんなとき、当局筋に顔が利く人脈から、「御礼」を要求される場合があります。
「御礼」には、法律上大きな問題になるケースと、現地習慣として認識されている水準の両面があるのが、現地法人が直面している現状です。
日本本社からみて「コンプライアンスに違反」にならないようにするため、外部のコンサルタント等と相談して進めることが望まれます。
《ケース2》仕入担当の不当なコミッション要求
メーカー(主に委託加工企業)においては、仕入担当がかなり重要なポジションとなります。
原材料を日本本社や顧客が支給し、副資材をベトナム国内で調達する場合が多いですが、仕入担当者は、時に強い権限を持ち、仕入先から一定の「コミッション」を受領しているケースがあります。
ベトナムでは、コミッションの文化が非常に浸透しているため、現地法人は常に仕入担当をチェックする必要があります。
必ず相見積りをとる、仕入責任者を現地法人社長が信頼できる人にする(ローカルパートナーの親族は特に危険)、会社の責任者が仕入れをチェックする等の対策が効果的です。
また、日本本社からは仕入の管理データを定期的に入手し、購入相場を市場相場と比較することも有効です。
なお、最近では、現地法人に「内部通報制度」を導入している日系企業も多くなっています。どの国でも、不正を発見するのには、「密告」が一番効果のある制度です。
《ケース3》販売先に支払う手数料
仕入コミッションと似ていますが、販売先からコミッションが要求される場合もあります。
コミッションを拒否すると新規の取引先が開拓できないと悩んでいる外資企業も少なくありません。
コンプライアンスとのバランスを考慮した、ケースバイケースの「実務上」の対応が求められるところです。
日本スタイルを固持しすぎると、現地法人の運営が上手くいかないケースがあります。
現地の商習慣を理解した上で、その国に合う運営方法を決定するのが適切です。
重要なのは、こういった交渉を現場責任者(マネージャー)任せにせず、海外現地法人トップ自らが行うことです。
トップ同士であれば、従業員より一段高い「ビジネス」の視点からこのような話題について話し合うことができ、現場レベルでの泥沼から抜け出すことも可能となります。
注:執筆内容はポイントが分かりやすいように原則的制度を中心にご説明したものであり、例外規定などを網羅するものではありません。
※本記事は、弊社の提携パートナーである、みらいコンサルティンググループによるものです
【みらいコンサルティンググループ会社紹介】
1987年創業。従業員数約200名(海外拠点を含む)。
日本国内に9拠点、海外(中国・ASEAN)5拠点に加え、
ASEANにジャパンデスク9拠点を有する。
公認会計士・税理士・社労士・ビジネスコンサルタントが一体となる
「チームコンサルティング」により、中小中堅企業のビジネス展開を
経営者目線から総合的にサポート。
株式上場支援、働き方改革の推進、組織人材開発、
企業を強くする事業承継やM&A、国際ビジネスサポート等で
多数の支援実績がある。
国際ビジネス支援サービス紹介(みらいコンサルティンググループWEBサイト)
第○条 (定義《例》) この規定において、海外赴任社員とは、1年以上の期間にわたり、海外の現地法人・支店・営業所・駐在員事務所等に勤務する者または出向することを命ぜられた者をいう。 |