これまでお伝えしたように、「2020年以降の国内の住宅市場の落ち込み」が迫る中で、企業存続に向けた戦略の一つとして海外展開を考えている経営者様が増えています。
海外に拠点を設立してから事業化するまで一般に2〜3年間を要することを考えると、残された時間は長くありません。
最終回の今回は、3年後の事業化に向けて今やるべきことをお伝えします。
1.進出した日本企業が 直面する壁
海外進出を果たす日本企業が増えている一方で、海外から撤退している企業数も増え続けています。
帝国データバンクの調査によると、海外に進出している企業のうち39.4%が「撤退または撤退の検討あり」と答えています。
図1は、海外からの撤退経験がある企業の「海外拠点からの撤退理由」の上位5項目です。
「売上」「コスト」「組織」「パートナー」と、各社の撤退理由はさまざまなようです。
図2は、海外からの撤退経験がある企業の「海外直接投資を成功させるために最も重要と考える項目」の上位5項目です。
図1に示した項目と類似した項目が並んでいる中で、第1位には「フィージビリティ・スタディーの実施」(以後F/S)が入っています。
F/Sとは、「実行可能性調査」のことです。
図1、図2の調査の回答者である撤退経験がある企業のうち、海外進出前にF/Sを実施した企業は50%以下です。
F/Sをせず不十分な情報しかない中で、進出国、進出事業やパートナーを決めたことが、事業撤退の要因の一つになっています。
事業進出を決定する前に実施すべきF/Sは多岐にわたりますが、特に重要な項目は以下の通りです。
ⅰ) 外資規制・業種規制調査
ⅱ) パートナー調査
ⅲ) 顧客・市場・競合調査
外資規制・業種規制調査は、検討初期段階で必ず行うべき調査です。
外資100%での法人設立が認められていない国もありますし、法人設立は容易でも事業をするためのライセンスを取得する段階で、「資本金1億円以上でないと許可が下りない」「業界団体が既得権を守るために外資企業には原則ライセンスを発行しない」などの壁にぶつかるケースもあります。
法律で定められている内容と現場で運用されている内容が異なる場合もあるため、早めに専門家に相談することをおすすめします。
図2の海外直接投資を成功させるために最も重要な項目の第3位、第5位に「パートナー」に関係する項目が入っていることからもわかるように、パートナー調査もF/Sのなかで重要度の高い内容です。
海外において住宅関連事業を進めるに当たり、「不動産デベロッパー」「下請け施工会社」「通訳会社」「法律・会計事務所」など複数の事業パートナーとの協力が不可欠になります。
一方で、「海外のパートナー候補(外国人、日本人にかかわらず)にだまされた」という話は後を絶ちません。
ハウスメーカー、地場ビルダー共に、海外展開に成功している企業は、主要なパートナーとの付き合いを開始する際には慎重に見極め、まずは小さな契約から少しずつ付き合いを広げています。
顧客・市場・競合調査は、進出前に現地に赴いて実施すべき内容です。東南アジアを訪れると、「国民の若さから勢いを感じる」という肌感覚を持つ経営者の方は多いようですが、住宅関連産業の中で、「今」求められている事業が何かを見極めて進出を決める必要があります。
ただし、東南アジアにおいては、十分に統計調査データが整っていないケースが多いため、現地の生の声から市場規模や商流を把握する必要があります。
また、現在では東南アジア各国でもインターネットが普及していることから、マクロなデータを収集する際にはウェブ調査を実施することも可能です。
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全10回にわたり、日本市場の落ち込みが確実な中で、企業存続に向けた有力な戦略オプションの一つとしての海外展開についてお伝えしました。
皆様の知識が深まり、少しでも海外に目を向けていただければ幸いです。
※「新建ハウジング」弊社コンサルタント寄稿記事より転載
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