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海外進出sQ&A vol.6 海外赴任者の給与にかかる税金の基礎

Question.

海外赴任者の給与に対しては、日本と海外のどちらで税金を払うことになりますか?

Answer.
1) 短期赴任か長期赴任かで、対応が異なります。

2)短期赴任の場合は、期間が「183日を超えるが」が、検討ポイントとなります。

 


1.
居住者・非居住者の区分

海外赴任者の税金を考えるにあたっては、まずその赴任者が「居住者」であるか「非居住者」であるかが重要です。
居住者と非居住者の税法上の区別は、以下のとおりです。












そのため、赴任期間が1年未満の予定の場合(以下、便宜上「短期赴任」)には、原則としてその赴任者は日本の「居住者」のままです。

逆に、赴任期間が1年以上(以下、便宜上「長期赴任」)に達する見込みの場合には、原則として赴任者は日本の「非居住者」となります。



2.
短期赴任(1年未満)のケース

短期赴任の場合、納税関係は以下のとおりです。











短期赴任者は日本での「居住者」となります。
この場合には、日本では「日本・海外を含むすべての給与」に対して課税されてしまいます。

一方、海外では、海外の給与に対して税金が発生します。このため、海外での給与について、「二重課税」の問題が発生します。

 

ただし、多くの国において、租税条約により「183日ルール」が定められています。

これは、海外滞在が1年間で183日以下である場合には、「海外では課税しない」というルールです。
このルールが適用される要件は、相手国との租税条約次第ですが、一般的に以下のような内容となっています。














つまり、赴任期間が183日以下で、給与が(実質的に)日本から支払われていて、かつ租税条約が結ばれている場合には、原則として「日本においてのみ」税金を払えばよい、ということとなります。

 



3. 長期赴任の場合


長期赴任の場合、納税関係は以下のとおりです。











長期赴任者は、原則として日本の「非居住者」となります。そのため、原則として給与所得に対する日本での課税は発生しません。

一方、海外においては、日本・海外を含むすべての給与に対して課税されるケースが多くなっています。



4.
赴任者が「役員」の場合

今まで見てきたのは、赴任者が「社員」のケースです。

一方、赴任者が日本法人の「役員」の場合は、「世界中どこにいても会社経営のために活動することが可能である」とみなされます。
そのため、一定の場合(※)を除き、日本において納税が必要となります。
一般社員と取り扱いが異なるので、注意が必要です。

※:例えば、海外支店で使用人として常時勤務している場合、など。



5.
実務対応上の留意点

日本において給与に税金が発生するかどうかは、実務上は「源泉徴収(税金を給与から差し引く)」が必要かどうかという課題に発展しますので、給与支払時に特に注意する必要があります。

社員の「短期赴任」の場合には、183日を超えるかどうかがポイントとなります。

一方の長期赴任の場合には、赴任者が一年以上の海外勤務となることが明らかにされていることがポイントになりますので、社内辞令等で勤務期間を明らかにした上で赴任をスタートすることが望まれます。
そうしないと、日本でも海外でも居住者になり、すべての所得に二重に税金がかかる、いちばん厄介な状態となるおそれがあります。

さらに、赴任者が役員の場合には、上記のとおり報酬に関する考え方が一般社員と異なるため、注意が必要です。




注:執筆内容はポイントが分かりやすいように原則的制度を中心にご説明したものであり、例外規定などを網羅するものではありません。



※本記事は、弊社の提携パートナーである、みらいコンサルティンググループによるものです


【みらいコンサルティンググループ会社紹介】
1987年創業。従業員数約200名(海外拠点を含む)。
日本国内に9拠点、海外(中国・ASEAN)5拠点に加え、
ASEANにジャパンデスク9拠点を有する。
公認会計士・税理士・社労士・ビジネスコンサルタントが一体となる
「チームコンサルティング」により、中小中堅企業のビジネス展開を
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株式上場支援、働き方改革の推進、組織人材開発、
企業を強くする事業承継やM&A、国際ビジネスサポート等で
多数の支援実績がある。

国際ビジネス支援サービス紹介(みらいコンサルティンググループWEBサイト)

第○条 (定義《例》)

この規定において、海外赴任社員とは、1年以上の期間にわたり、海外の現地法人・支店・営業所・駐在員事務所等に勤務する者または出向することを命ぜられた者をいう。