■はじめに
現在、住宅業界のみならず、企業の中間管理職たる
マネージャーの業務領域が大きく変化している。
それは、ITの浸透によって情報の収集、分析、伝達といった手段が
格段に容易になったことが一つの原因と考えらえる。
具体的には、マネージャーが事業方針を部下に伝達することや、
実績数字を収集したりまとめたりするといったマネジメント業務が減り、
逆に、自らも数字を作っていく活動、
つまりプレイヤーとして最前線で顧客から契約を取っていく活動が
重要視されるようになったということだ。
このため現在のマネージャーは、必然的に社内で部下と面と向かって
課題を共有しあうコミュニケーションの時間が減り、
数字を作るための顧客への対応に時間を取られているのでは
ないだろうか。
したがって、限られたコミュニケーション時間の中で
どれだけ効果的に人財育成を行うかが
重要な課題となってきている。
そのためには、若手メンバー一人ひとりの特性を把握し、
それぞれの特性に合った育成計画を立てる事が必要となる。
以下では、そのポイントについてお伝えさせていただくこととする。
■ポイントは「強み」と「モチベーション」の掛け合わせ
若手メンバーを少ない時間でより効果的に育成するポイントは
「強みを最大限発揮させ、弱みを凌駕する」
ことと言える。
つまり、「弱み」を補うことに時間を使うのではなく、
部下である若手メンバーの「強み」を理解し、
それを最大限発揮させることが大事だということだ。
なぜなら、若手メンバーの弱みを克服させることばかりに
躍起になると、育成する側、される側ともに疲弊してしまい、
多くの時間を投じた割にいつまで経っても活躍できない、
という状態になりかねない。
この「強みを最大限発揮させる」ことを
もう少し具体的に定義化すると以下のようになる。
「強み」 × 「モチベーション」 = 「早期戦力化」
要は強みを理解した上で、モチベーションの源泉を上手くくすぶることで
より能力が発揮されやすくなる、という構図である。
■強みを理解する
そのためには、まず若手メンバー一人ひとりの「強み」を
見つけてあげることが必要だ。
若手メンバーの育成においては、何かと「弱み」の方が目立ってしまい、
そちらばかり注意しがちであるが、それでは上手くいかない。
経験が浅ければ、「出来ること」よりも「出来ないこと」の方が
圧倒的に多いのは当然であり、「出来ないこと」だらけの中で
どのような潜在能力を持っているかを見定めなければならない。
そこで一度試していただきたいのだが、
ご自身の部下の「強み」「弱み」を
紙に書いてみて欲しい。
書いてみると気付くことだが、概ね「強み」は抽象的に、
反対に「弱み」は具体的に表現されているのではないだろうか。
これは人間の心理として自然なことで、
人はアラの方がより具体的に印象に残ってしまうためだ。
特に、上司自身が出来る事、当たり前にやっていることに対して、
部下が出来なければ厳しく判断する傾向がある。
一方で、上司が苦手な分野を若手メンバーが出来ていれば
過大評価する傾向がある。
このような偏った評価をしていると、結局のところ自分が辿ってきた
成長プロセスと同じ形でしか若手メンバーを育成できなくなってしまう。
そこで紙に書き出した後は、ぜひ他のマネージャーたちに
共有していただき、客観的な目で見直してみてもらいたい。
それでも客観性に自信がない、あるいは強みが見つけられない場合は、
以下の書籍を参考にしていただくことをお勧めする。
日本経済新聞出版社
『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす』
マーカス バッキンガム (著), ドナルド・O. クリフトン (著),
田口 俊樹 (翻訳)
この書籍は、人間の強みとなる性質を「責任感」「適応性」等、
34の項目に分類して整理しており、自分自身がどの性質の強みを
持っているか発見するための診断も出来るようになっている。
例えばチームのメンバーで診断をした場合、
全員がバラバラの結果が出たとしたら、そのチームは
お互いが補強し合える反面、相手の強みを理解しにくくなる傾向があるため
協調性は崩れやすくなる。
反対に、チーム全員が共通の強みを持っていた場合には、
チームで何か一つのことに取り組むときに統制が取りやすく、
チームとしてのまとまりもあるが
多様な発想が生まれにくいためイノベーションは起きにくい。
実際にある住宅会社のチームで行ったところ、
以下のような診断結果が出た。
このチームはAさんがマネージャー、Bさん、Cさん、Dさんは
いずれも2年目以下の若手メンバーであったが、
それぞれのメンバーと共通の強みを発見できたことで、
個々人の特性の理解が進み、強みを生かした育成が出来るようになった。
例えば「親密性」「共感性」に強みを持つBさんに対しては
お客様と仲良くなることに意識を向けさせ、
一方で「達成欲」や「目標志向」に強みのあるDさんには
より「目標」を意識させるようにする、といった具合だ。
そうしたところ、このチームは比較的若いチームであったが、
社長の期待水準を満たす結果を得ることが出来た。
診断は簡単なアンケートによるものだが、
一人ひとりの強みが何であるかを知る手段として
参考にしていただくとよいのではないだろうか。
■モチベーション要因を理解する
上述したように、強みを発揮させる上でもう一つ必要となるのが
「モチベーション要因」を理解することである。
要は元々持っている強みを、
「やる気」によって最大限引き出すということだ。
一度、それぞれのメンバーのモチベーション要因も
考えてみていただきたい。
一般的に仕事におけるモチベーションの要因は
概ね以下の11項目に分類される。
1)マネジメントスタイル
2)CIS(顧客感動満足)
3)裁量権(自己決定感)
4)達成&賞賛
5)仕事内容
6)成長&学習
7)理念・戦略
8)会社の体制
9)職場の人間関係
10)労働条件
11)報酬・待遇
メンバーのモチベーション要因がこれら11項目の
どれに該当するかを探るには、以下のような質問を投げかけてみるとよい。
1.入社の動機は何か
2.どういう人物になりたいと思っているか
3.過去の成功体験は何か
こうした質問を通じて得た回答から、モチベーション要因を
探ることができる。
もしメンバーの強みが「着想」で、モチベーション要因が
「仕事内容」だとしたら、何かアイデアを考えさせる仕事を
積極的に振るとよい。
あるいは強みが「コミュニケーション」で、モチベーション要因が
「CIS(顧客感動満足)」だとしたら、お客様と接する仕事の時間を
より増やすとよい。
■最後に
「強み」や「モチベーション要因」を理解できたとしても
常にそれを意識して若手メンバーを育成することは
容易なことではない。
もちろん「弱み」にしっかり向き合わさせ、改善を促して
いくことも必要だ。
ただ言えることは、強みによって小さな成功体験を積み重ね、
仕事にやりがいを覚えることが出来れば、
能力開発はもっともっと進むだろう。
そのための「強み」の発見であり、「動機づけ」なのだ。
単に甘やかすのではなく、より目的的に育成方法を考えてみていただきたい。