海外展望Vol.3 タイ
~ASEANにおける日本企業進出ナンバーワンの国~
中国、米国に次いで、多くの日本企業が進出している国、それがタイである。
自動車メーカーを中心とした部品・裾野産業は一層の集積をみせ、
様々な製造業がタイの工業団地を生産拠点とし、その深化が進んでいる。
同時に、失業率は1%を切り、中間層・富裕層の増加により、消費市場としての
魅力が格段に増している。
街で見られる自動車の多くが日本製であり、また和食人気の高まりから
様々な場所で日本食レストランが見受けられるのである。
2015年のASEAN統合に向けた統括拠点としても重要性が増すタイ。
我々はこれまでに、タイで権威のある住宅不動産調査機関や協会と現地で
共同セミナーを実施し、上場企業をはじめとした現地不動産企業や
日系企業との面談を重ねてきた。
その中で見えてきたタイにおける住宅不動産市場の実態についてお伝えしていく。
<政情不安に対する現地の実態>
まず、タイの市場を語る上で外せない問題が政情不安であろう。
我々は2014年1月13日「バンコク封鎖」と称された大規模デモが起きて以降、
多少の不安も抱えながら、数回に亘りバンコクを訪れた。
首都バンコクの主要な交差点がデモ隊により占拠され、封鎖されている
状態であった。日本では見られない光景であり、そこには異様な緊張感のような
雰囲気が感じられた。
しかし、数日滞在するとそれは消えていった。
ステージでは歌や音楽が流され、デモ参加者のほとんどがお祭り気分なのである。
現地の人達においても達観した見方がほとんであり、日常生活では渋滞に
困りはしても、治安による不安は感じられない、というのが正直なところである。
クーデター後はデモ隊が解散し、夜間外出禁止令も解除され、
市民生活はほぼ正常に戻ってきている。
株価指数も回復基調で、経済好転の兆しが見える。
実際に行ってみると政情不安による影響は感じられずに一日を過ごす、
というのが実態であるが、今後の動向には注視が必要であろう。
<タイ・バンコクの経済状況>
2014年現在、タイにおける人口の「塊」は30代~40代にあり経済発展の
真っ只中にある。
一人当たりのGDPは5,000ドルを超え、首都バンコクでは15,000ドル超えている。
バンコクにおける地下鉄や鉄道の各駅には、近代的なショッピングモールが
立ち並び、今なお開発ラッシュが続いている。
大型ショッピングモールやスーパーマーケットなどの商業施設は先進国並みへと
進化を遂げており、日本のバブル期を彷彿とさせる。
また、鉄道や高速道路を郊外に伸ばす延長工事が予定されており、
バンコク商圏は更なる広がりを見せていくであろう。
<住宅不動産市場における動向>
住宅不動産開発については、2011年の大洪水の影響で一時的に大きく
減少したものの、2012年以降、また伸びを見せている。
特にコンドミニアム(マンション)についてはバンコクの至るところで
開発が相次ぎ、全体の半数以上を占めている。
(出所)Real Estate Information Centerより作成
日系企業では、2009年にセキスイハイムがタイ大手の
サイアム・セメント・グループと合弁会社を設立し、
2014年度250棟の販売を計画している。
また2013年には三井不動産がアナンダ社と合弁会社を設立し、
1,875戸のコンドミニアムプロジェクトを展開する。
同じく2013年に三菱地所がタイ大手デベロッパーAP社と合弁会社を設立し、
3プロジェクト・計2,074戸のコンドミニアムを今年5月から販売している。
その他有力デベロッパーの進出検討の話も出ており、
今後、日系住宅不動産会社の進出も加速する可能性がある。
タイにおける住宅事情の特徴としてあげられるのが、81%といる非常に高い
持ち家率だ。その要因は不動産価格の上昇と税制面にある。
タイでは相続税がなく、コンドミニアムには固定資産税もかからない。
価格が上昇している中で所有に対する課税がないため、不動産は資産としての
価値が高く、投資としての需要も多いのだ。
バンコク中心地部では、物件価格が高騰している。
そのため近年では1戸あたりの狭小化が進んできている。
コンドミニアムにおいて3LDKタイプは非常に少なく、1Kタイプや1LDKタイプの
占める割合が大きい。単身や夫婦での居住、投資目的での志向が多くなっている。
一方、広い住戸やファミリーでの居住を求める消費者は、
郊外での戸建を志向するケースが多い。
<タイの住宅価格動向>
以下は、バンコクにおける2013年の契約物件価格の分布を示している。
1バーツを3.13円として換算し作成した。
(出所)AREA社資料より作成
500万円前後の価格帯が一番多くなっている。
コンドミニアムにおけるボリュームゾーンであり、1Kや1LDKタイプの物件戸数が
多いことに起因しているであろう。
次いで1,000万円~1,500万円が多いが、これは戸建のボリュームゾーンとなる
価格帯である。
ファミリー向け物件を開発する際は、この1,000万円~1,500万円の価格帯が
一つの目安となるだろう。
以上がタイの住宅不動産市場の概況である。
住宅不動産開発の波はバンコクから郊外へ、さらには第2・第3の都市へと
広がってきている。
また、増える邦人に対する住宅ビジネスの関心も高まってきている。
そこで次回は、バンコク郊外やその他の都市における市場可能性と
日本企業進出の可能性について言及していきたい。