■ はじめに
今後さらに縮小する住宅市場やパワービルダーなどの競合の激化、優秀人財の不足などがますます顕著になっていくであろう未来に向けて、今、住宅会社は何に取り組むべきでしょうか。それを知るためには、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉があるように、時代の流れやトレンドをしっかりと踏まえた経営をする必要があります。
ご存知の通り、住宅業界における競争優位性の持続期間はますます短くなるばかりです。そこで、今回のコラムでは、今後3年の競争優位を確立するために何が必要かをまとめさせていただきました。
■ 住宅業界における競争優位の変遷
図1をご覧ください。かつて、1960年代に戦後初めて大きな変化が生まれました。それは「住宅総合展示場」の出現です。1968年に大阪でABC住宅総合展示場が初めて生まれました。その販売チャネルの進化に上手く乗じたのがプレハブ住宅メーカー(ハウスメーカー)です。この競争優位性を活かし、全国で次々と生まれる住宅総合展示場にこぞって出展をすることによって、ハウスメーカー比率が20%を超えるに至りました。
ハウスメーカー以外の企業も次々に総合展示場に出展し始めると、競合とお客様を奪い合うことになるため、次の重要な競争優位性は「営業力」に移っていきました。その後、1995年の阪神淡路大震災により「商品力(ハード)」が重視されるようになりました。震災により、全半壊した住宅は、およそ25万棟にのぼり、耐震の重要性に対する認識が全国の消費者に広まったためです。また、同時期に地域ビルダーのフランチャイズ加盟の大幅増加などにより、住宅業界における商品性能のバラつきは徐々に小さくなり、差別化が困難になりました。
そして、「失われた20年」が始まり、特に1990年代後半からは消費税増税や消費者の年収低下などが顕著になり、ローコスト志向の顧客層が増加してきました。その結果、競争優位性は「価格競争力」に移りました。価格は安く、それでいて、ある程度の性能やデザイン性があってほしいというコストパフォーマンスを重視する時代です。このトレンドは今なお続いています。
しかし、今はすでに価格競争力での差別化も難しい時代に突入しています。では、同じ商品力や価格優位性を持つビルダーでも何が成否を分ける要因となっているのでしょうか?それは「WEBマーケティングによる集客力格差」です。
住宅総合展示場が出現したときのようなチャネルの進化が始まっています。「WEBマーケティング」の領域において、競争優位が生まれていることを我々は事実として受け止めて経営に取り入れるべきではないでしょうか。
☑︎チェック
以下のWEBマーケティング用語の中で何個理解できますか?
もしわかるキーワードが10個以内であれば、活用度合が相当低い可能性があります。
■ なぜ競争優位性がWEBマーケティングに移ったのか
1980年以降に生まれた人を「デジタルネイティブ」と呼ぶことはご存知でしょうか?つまり、学生の頃からインターネットやパソコンを使いこなしてきた世代のことを指します。こうした世代はそれまでの世代と比べて、価値観(ニーズ)が多様化しています。その理由はインターネットやパソコンを自由に使いこなせることもさることながら、雑誌や媒体紙による一方的な情報提供が弱くなったことも大きな原因と言えます。
図3をご覧ください。価値観やニーズは、より具体的かつ多様化されてきたという認識があると思いますし、それは、今後も続いていくと思われます。したがって、デジタルネイティブ世代の多様なニーズを的確に捉えることが重要になります。
それでは、デジタルネイティブ世代にはどのようなアプローチが必要なのでしょうか?一言で言うと「その消費者個人の志向性により合った、具体的な情報を届けること」が重要になります。例えば、豚骨ラーメンが食べたい人に、塩ラーメンのオススメのお店を教えても全く参考にしてもらえないのと同じです。
そういった顧客ニーズの多様性に対応できるのは現在「WEBマーケティング」のみです。WEBであればどのようなキーワードで検索したかによって、顧客ニーズをおおよそ把握できます。
例えば、「注文住宅 東京」と検索する人と「東京 戸建て」と検索する人では、ニーズが異なることがわかりますでしょうか。前者は都内で注文住宅を求めている人、後者は都内で分譲戸建を求めている可能性が非常に高いのです。このようにWEBを活用することで検索キーワードから消費者のニーズを知り、適切な情報提供が可能になるのです。
実は、WEBマーケティングによって競争優位性を築いている会社は、この性質を理解し、集客戦略を組み立てています。その中でも特に大事なことは、「強みのアンバンドリング(分解)」という考え方です。
今までは、「地域密着&自然素材&ローコスト」など、企業の強みを束ねてチラシや雑誌にいかに密度を高く掲載するか、一度で伝えきるかというのが主流でした。しかし、「強みのアンバンドリング(分解)」という考え方は、これと逆行します。すなわち、検索ワードを中心に自社の強みの中の一部のみを訴求し伝えることで、その顧客にベストマッチした企業であるように見せているのです。
さらに、そのアンバンドリング(分解)された強みを何十通りにも分けて同時に展開することで、多様化した顧客の価値観(ニーズ)に圧倒的な量で答えることができているのです。(図4)しかし、これが紙媒体であれば多大な印刷・配達コストや顧客情報が必要になり、WEBと比較すると実現は非常に困難になるでしょう。
■ 住宅会社がWEBマーケティングに失敗してしまう3つの落とし穴
これまでは、住宅業界における競争優位の変遷とその一端を担うWEBマーケティングの可能性についてお伝えしてきました。しかしながら、関心があるにも関わらず、なかなか着手できていない、または着手したものの成果に繋がっていない企業様も非常に多いのではないでしょうか?
本章では、一般的な住宅会社様が陥りがちな点をお伝えすることで、WEBマーケティングにおける要諦を掴んでいただきたいと思います。
なかなか成果につながらないという住宅会社様においては、以下の3つの落とし穴のどちらかにはまってしまっているケースが多いと想定されます。
①自社のターゲットに合った消費者に情報提供ができていないから
②顧客心理に沿った熱感を高める情報の見せ方ができていないから
③資料請求をしてもらうだけで止まってしまい、来場に繋げられていないから
①:自社の商品に関心がある方でも、嗜好性やニーズに違いがあります。例えば、デザインに関心の高い方には、デザインの情報が提供されるべきですし、耐震性に関心の高い方には、その情報が提供されるべきです。その結果、お客様に関心を持っていただくことが可能になります。
②:営業上、「何を伝えるか」と同等、あるいは、それ以上に「どの順番で伝えるか」が重要です。もし、展示場にご来店いただいた直後のお客様にいきなり自社商品の構造の説明をしたとしたらどうなるでしょうか。熱感を高めるためには、最初はお客様の興味を引きつつも緊張感をほぐしてあげる必要がありますし、自社の商品説明をするのであれば、その前にかならずお客様の現在の住居の不満や新居への要望を引き出しておく必要があります。
同様に、WEBにおいても適切な情報提供の順番がありますので、その順番でご覧になっていただかなくてはいけません。しかし、通常の企業ホームページは、アクセスした方が気になる項目を自由に見ることができるので、必ずしも熱感が高まる順番で見てくれるとは限りません。そのため、通常のホームページとは違った工夫が必要になります。
③:多くの住宅会社で悩まれていることですが、資料請求をいくら増やしたとしてもなかなか来場には結びつかないことが多いのです。資料請求から来場につなげるには、一度低下した熱感を再度高めて来場させなければならないので、ハードルは決して低くはありません。そのため、最善の方法は最初から「来場予約」にしてしまう方法です。そうすることで、資料請求からアポを取り直す手間や時間が必要なくなります。しかし、資料請求から来場予約に変えた分「申込」に対する心理的ハードルが高まっているため、より熱感を高めるためにも①と②の工夫を徹底することが重要になるのです。