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コラム


優良住宅会社のビジネスモデル・財務のKPIに学ぶ~優良住宅会社をベンチマークし自社に生かすには~(後編)

②「活動性」優位の優良分譲会社B社

「総資産回転率」・・・事業に投下された総資産が何回転したか、総資産の活動効率を表す指標/収益性との関連で活動の効率性を見ることも出来る
「固定資産回転率」・・・固定資産が何回転の活動をしたか、固定資産の活動効率を表す指標

B社は分譲会社によくありがちな、営業マンが売りやすい土地だけ売り、歯抜けになり、最終的にどんどん在庫が増えるといった失敗を出さないことを仕組み化して伸びている会社です。また、多拠点展開するときに、この2つの回転率をしっかりと意識することで、拠点の展開と撤退を繰り返すといった失敗もしない安定的な経営を実現しています。

この多拠点展開を考えるうえで、特に見るべき指標は固定資産回転率です。この回転率が低いにもかかわらず、拠点を広げることは非常に危険です。拠点を出したときにそれぞれの拠点での収益をしっかりと考えること、つまり、それぞれの拠点が安定収益を出せるビジネスユニットとして成り立っていることが重要です。

また、多拠点展開など組織を拡大していく際に、起こりがちなのが自社のDNAが浸透しなくなり、今まで起こり得なかったトラブルやお客様に対するあり得ない対応が生じることです。そのため、組織拡大時には、自社の価値観や組織風土、自社の勝ちパターン、ノウハウなどを浸透していくことに時間とコストを割かなくてはならなくなります。同社の社長も自社のDNAを浸透させることに注力しています。それが「言語」のマネジメントです。

「言語」のマネジメントとは、会社の「共通言語」を作り上げ、浸透させることです。例えば、「3つのトリガー」、「購買心理の7つのステップ」など、自社の営業手法やノウハウの呼び名を統一し、社長が何度も何度も口酸っぱく伝え、社員が内容を覚えているか問い続け、共通言語を作り上げることに注力しています。

共通言語を作り上げるメリットは、2つあります。1つは、コミュニケーション・スピードが上がることです。売れない営業マンのレビューをする時も、ゼロからノウハウを伝えるよりも、「購買心理の7つのステップのどこが出来ていないんだ」という方が教育時間の削減につながり、かつ幹部が部下を教育・業務管理しやすい環境が出来上がります。

もう1つは、自社のノウハウが浸透し、ある一定の品質を担保できるということです。営業、設計、工務いずれも業務で成果を出すためのノウハウが浸透するため、会社の地力を底上げすることができます。このような「言語」のマネジメントは、社長にしかできない業務です。

同社の社長は他の社員に任せるのではなく、自らが多大な時間とコストを投資して実施しています。このように、B社はマネジメントにしっかりと時間を割くことで、総資産回転率、固定資産回転率を下げることなく、安定した成長を続けています。

③「生産性」優位の優良注文住宅会社C社

「一人当り売上高」・・・販売人員以外も含め従業員一人当り、どれだけ売り上げているかを示す指標

住宅会社としては驚異的な水準の「一人当り売上高」を実現しているこの会社のポイントはたくさんありますが、代表的な2つを取り上げますと以下の通りです。

(1)間接人員の収益化

C社は事業拡大にともない、人員が増えていく時に、営業以外の人員が増えても単純なコスト増にならないよう、アップセルとクロスセルにより間接人員も利益貢献を出来るよう工夫をしました。例えば、コーディネート課独自に契約後、着工までに一人のお客様から50万円のオプション工事受注を売上目標とし、カーテンや照明のオプション用のコーディネートブックを作成し、それを見せながらオプション購入の提案をする等、間接部門にも収益目標を持たせることで、組織全体の収益を高めているのです。

(2)ヒアリングの標準化

C社の躍進は一人のトップセールスマンの存在が大きく影響しました。しかし、組織全体の収益性を考えると、トップセールスマンのみ最前線で受注をとり続けるには限界があります。そこで10人いる他の営業マンが、トップセールスに近い生産性で受注を取れるよう仕組みを整備しました。

具体的には、このトップセールスマンの強みであったヒアリング力を標準化出来るよう、必ず聞き出しているヒアリング項目を抽出し、ヒアリングトークも合わせて整備することで、標準的な営業マンでもトップセールスと同レベルでヒアリングを行えるよう営業スキルのバラツキを減らしました。

そのヒヤリングシートには、例えば、競合や決定権者等を細かく設定し、各店長がこのシートに沿って顧客を徹底管理出来るようにすることで、トップセールスが最前線で受注を上げる役割からこの仕組みが徹底的に活用されるよう応援する役割にシフトし、営業マン10人で248棟という驚異的な営業生産性を誇る組織を創り上げたのです。

◎ 優良企業のビジネスモデルと財務戦略のまとめ

ご紹介させて頂いた3社は、ご紹介した内容の他にもたくさんの要因があり、優秀な成績を収めています。

しかし、それぞれの会社はそれぞれの外部環境や経営資源を最適化するためビジネスモデルを構築したからこそ、それが良い形で財務に現れているのであり、ただ単純にそのビジネスモデルや財務状況を目指したからといって、自社が同じように伸びるかといったら、それは違います。是非、取り入れる部分は自社に合った形にし、最適な独自のビジネスモデルの構築に役立てて頂ければと思います。

また、この他にもご紹介したい企業や、その会社の指標がございますが、このコラムではご紹介しきれないため、ご関心がおありの方は別途お問合せ下さい。

■ 高収益財務戦略の極意

最後に、上記で取り上げさせて頂いた企業のように、高収益性を保ちながら安定的に成長していくための財務戦略の考え方について、ポイントをご紹介いたします。

○ボトルネックの把握

住宅会社が安定成長を図るためには、成長に際してどこがボトルネックになっていくのかを的確に見抜き、対策を打っていく必要があります。

ボトルネックとは上記の図のように、業務が行進をする際に、最も遅くなってしまうパートのことです。集団で進んでいくためには、最も歩みの遅い人に合わせなくてはならないため、全体でスピードを上げようとした場合は、このボトルネックをいかに解消していくかが課題となるのです。住宅事業においてこのボトルネックになり得るのは、組織体制と集客というケースが大半です。

組織体制においては、例えば、受注は安定的に伸びてきている一方で、施工の体制を築ききれず、工事部隊が残業を繰り返し、クレームが多発しているような組織では、明らかに工事工程がボトルネックとなっていることがわかります。

また、設計を売りとしている会社がよくぶつかるケースとして、設計メンバーが増加する案件を担当しきれず、これを営業メンバーの営業力で乗り切ろうとしても、設計知識の少ない営業メンバーでは対応しきれずに契約数が伸びないということが起こりがちです。この場合、設計の負担を軽くする対策や、設計が関わらなくても売れるような企画住宅商品を作る等の対策が必要となります。

このボトルネックを考えるに当たっては、組織の生産性が他社と比較してまだ改善の余地があるのか、それとももう生産性としては限界で人員を補強しないといけないのかを適切に見極めていくことが必要です。人員を採用して、戦力化するためにはそれなりに時間がかかるため、企業の成長に合わせて、先行的に対策を打っていくことが大切となるのです。ここでは、各組織の生産性の基準を参考資料として掲載いたします。

もう1点、住宅事業においてボトルネックになり得るのは集客です。市場が落ち込んできている今、いかにして見込み客を集めるかは非常に重要なテーマとなります。ただし、集客を確保しすぎてしまっても営業が担当しきれなくなってしまい、営業がボトルネックとなってしまうケースもあるので注意が必要です。

ある企業が月間で最適な集客数はいくつかデータを取ったところ、月8/人の新規接客を出来る場合が最も契約数が高くなるという結果が出ています。(WEBインバウンドなども含めた新規集客数ではなく、営業マンが直接面談をした新規接客数カウントにて。)

もちろん営業マンの力量によって、扱う商品によって差は出てきますが、営業人員数×8×12ケ月の集客が出来ているかどうか、一つの基準として参照頂ければと思います。

集客がボトルネックとなっている場合、集客構造の再構築が課題となります。特に、今すぐ客の集客が落ち込んでいる今、図1における上側ではなく、下側の集客体制を作るか、もしくは「自己開拓型」の集客活動に営業スタッフが時間を使うよう、組織の管理体制を変えていくことが求められます。

○利益先行管理

ボトルネックを把握したら、それを改善しながら成長を続けるための利益計画を立てることが求められます。目標利益設定においては、目標棟数×1棟当たり粗利率に対し、どの程度の戦略投資(人件費、広告宣伝費、減価償却費、教育・商品開発費、金利等)をしていくのかシミュレーションすることが次のステップとなります。

そして、住宅事業においてさらに考慮すべきなのは、集客から契約、契約から着工、着工から引き渡しまでのリードタイムが長いという点です。企業にもよりますが、初回来場から引き渡しまでのリードタイムは早くても6ヶ月、一般的には9ケ月程度かかるため、年度が始まった時点から残り3ヶ月の動き方によって、その年度の売上が決まると言っても過言ではありません。

この段階で、どの程度のお客様を集客出来ているのか、どの程度の集客企画を打てているのかによって、年度の売上は決まってしまうのです。

以上を踏まえて、利益管理は今年度分だけでなく、3か年先まで行うことが大切となります。今年度の計画は、最終利益がどの程度になるのかと、そこからどの程度投資をしたらよいか判別するために、来年度の計画は、集客と営業活動の計画を立てていくために、再来年の計画は、組織図と集客構造の構築計画を立てていくために求められるのです。

○まとめ

以上まとめますと、安定成長のためには、①ボトルネックを把握し、集客戦略と組織体制を描く、②販売目標棟数と戦略投資、利益目標を描く、③3か年の利益先行管理表を時系列に落とし込む、といった流れで財務戦略を組み立てていくことがポイントとなるのです。

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