Column

コラム


アフター事業を黒字ストック事業に変えるポイント(前編)

1 「フロー(新築)からストック(既存住宅)へ」住宅政策の転換

新築事業者にとって、いよいよ本格的な「冬の時代」が到来している。

あるシンクタンクによる将来予測では、2025年度には新設住宅着工戸数が約60万戸まで縮小することが予測値として出されている(グラフ1参照)。

こうした予測の背景には、人口や世帯数の減少、空家率の上昇といった避けがたいトレンドがある。従って、実際に60万戸まで減少するかどうかは不確かなものの、こうした流れは避けられないものと思われる。

また、国の住宅政策の流れも顕著に変わってきている。これまでは、ストック重視への転換と言いながらも、新築事業者に対して手厚い支援策を行ってきたが、それらもいよいよ限界にきていると見られ、新築(フロー)市場から既存住宅(ストック)市場へ完全に舵を切り始めたことが伺える。

住宅施策のうえで「ストック重視」の方向性が打ち出されたのは2001年だが、その後もなかなか現実の制度として具現化してこなかった。しかし、ここ数年で様々な方針、ガイドライン、政策などが矢継ぎ早にまとめられ、その代表的なものは20123月に取りまとめられた「中古住宅・リフォームトータルプラン」である。これは、リフォームによって住宅ストックの品質や性能を高め、従来の「新築中心の住宅市場」から、中古住宅流通により循環利用される「ストック型住宅市場」への転換を目的としている。

さらに、20127月の「日本再生戦略」では、不動産流通市場の活性化や不動産流通システムの抜本改革に重点が置かれるとともに、「2020年には中古住宅・リフォーム市場の規模倍増を実現する」といったスケジュール面での目標も提示されている。

また、20133月から「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」が開催され、同年6月には「既存住宅インスペクション・ガイドライン」が策定された。そして、国土交通省が20144月に発表した「不動産に係る情報ストックシステム基本構想」に基づく新システムの試行運用や検証が、2015年度中に一部地域で開始される予定となっている。これは不動産取引に必要な物件情報を幅広く収集し、一元的に宅地建物取引業者へ(一部は直接、消費者へ)提供しようとするものだ。そのプロトタイプの構築は2014年に始められている。

また、20142月から始まった、国土交通省による「長期優良住宅化リフォーム推進事業」「中古住宅・リフォーム市場の規模を倍増させる」といった計画に基づいた活動であり、劣化対策や耐震性、省エネルギー対策など住宅の性能を一定の基準以上に向上させるリフォーム工事費用に対して、国が補助金を交付し、その規模も年々増大している。

このように、住宅政策の主眼が既存住宅へ移行していることは確かなことで、新築事業者にとっては最後の砦ともいえる政策的バックアップへの期待も薄れてきているのが現状だ。ならばいっそ、追い風が吹いている「ストック(既存)市場」に目を向けてはどうか、というのが本コラムの主旨である。(図1参照)

2 「ストック事業は儲からない」の誤解

新築事業者の多くは、既存住宅を対象としたストック事業は儲からない、と思い込んでいる節がある。確かに新築事業に比べ、売上規模は小さく、積み上げがなければ大した収益にはならない。図2をご覧いただくとわかるように、そもそも根本的に事業構造が異なるのだ。

このように、新築事業の延長線上でストック事業を捉えていると、ただの「面倒くさい事業」にしか成りえない。しかし、見方を大きく変えれば、住宅市場に拘わらず多くの業界において、中古売買やアフターメンテナンスといったアフターマーケットにおける事業の方がはるかに高い収益性を実現しているという事実がある。

例えば、代表的な例でいうと、中古本の売買をしているブックオフと、一般的な大型書店との利益率の違いだ。ブックオフの経常利益率が概ね9%前後であるのに対し、ジュンク堂や紀伊國屋書店といった有名書店は概ね1〜2%の経常利益率でしかない。

あるいは、メンテナンスサービスに目を向けてみても、新車販売を行っているディーラーの平均的な営業利益率が3%程度なのに対し、自動車アフターマーケットを専門にしている会社の平均的な営業利益率は10%以上と高い。つまり、ストックをベースとしたアフターマーケットビジネスが「儲からない」というのは幻想に過ぎず、むしろ収益性の高い事業と言えるのだ。

先行する住宅会社はすでに収益化を実現している

それでもまだ信じられない方のために、住宅業界の例もご紹介させていただく。早くよりストックに目を向けてアフターマーケット事業を強化してきた大和ハウス工業では、戸建住宅事業の営業利益率が3.4%なのに対し、住宅ストック事業の営業利益率は10%程度となっている。しかも、営業利益額そのもので比べてみても、戸建住宅事業が130億円、住宅ストック事業が90億円、とその差は小さくなりつつある。つまり、効率良く稼げて獲得できる収益も増やし続けられるのが、ストック事業の真の姿だ。

3 「クレーム対応」から「CSのためのアフターサービス」へ転換することが不可欠

これまで様々な角度からアフターマーケットビジネス、すなわちストック事業の可能性を見てきたが、それでも「いや、現実にはアフター=クレーム対応で、とても収益を生み出す事業などほど遠い」という住宅会社も少なくないことだろう。では、どのような手を打てば、ストック事業を儲かるビジネスにすることができるのだろうか。一言でいえば「攻めのアフターサービス」への転換が不可欠なのである。

まず根本として、アフター要員がクレーム対応ばかりに追われてしまっている現状を変える必要がある。クレーム対応は負の業務であり、何の収益も生み出さないからだ。実際に我々が調査したところでは、アフター要員の仕事の8割はクレーム対応で占められていることが分かった。クレームが発生する主な要因を洗い出してみると、

といった点が挙げられる。1つ目の施工品質の問題は、品質を上げるための施策が必要なため、それはそれで重要なことであるものの、今回のテーマとは少し外れてくるため、また改めてご紹介させてもらうこととする。また、実際には多くの会社で2つ目、3つ目が直接的なクレーム要因になっていることも多いと言える。つまり、本当はクレームとは言えないレベルの問題(不具合)にも拘わらず、対応に問題があるためにお客様の不満を招いてしまっているということだ。

「攻めのアフターサービス」へ転換するためには、この2つ目と3つ目の状況をまずは打開する必要がある。具体的には、お客様にきちんと住宅の保証範囲やアフターサービスについて説明し、必要な定期点検は100%やり切る状態にもっていく、ということである。ここで、より明確にイメージを持っていただくために、ある住宅会社の取り組みについてご紹介したいと思う。

- 住宅会社A社の取り組み -

A社は新築事業を始めて15年で、年間100棟ほどの完工規模の会社である。これまでに引き渡した累計は約1,000棟で、そのアフターメンテナンスはこれまでたった1名の専属要員で対応してきた。定期点検は6ヶ月、1年、2年、5年、10年の計5回を行うことが形式的には決まっているものの、実際にはやり切れてはおらず、日々連絡を受ける不具合やクレームへの対応に追われているのが実状だった。

定期点検をやり切れていないこともあり、本来なら有償で受けるべき築2年を過ぎたお客様からの不具合についても、「以前から問題があったのに、全然対応してくれなかったじゃないか」とお客様に押し切られることがしばしばで、築年数に拘わらず不具合が出たらやむなく無償で対応してきた。結果として、年間の持ち出しコストは1,000万円強にも膨れ上がってしまっている。

このままでは、無償メンテナンスコストは引渡し数(ストック数)が増えれば増えるほど、膨らんでいくことは避けられず、コストを掛けてもお客様の満足度は上がらないうえにアフター要員はクレーム対応に疲弊するばかりで、悪い口コミすら広がりかねない状況は、まさに負のスパイラルに陥っている状態だった。こうした状況をなんとか打開すべく、アフターサービスの在り方を根本的に見直すことをA社の社長は決意した。

まず取り組んだことは、アフターサービスの見直しだ。住宅の保証範囲と期間をお客様に解りやすく伝えるためのツールを作成し、お引渡し時に説明する。それと同時に、定期点検の実施タイミングや点検項目も整理し直し、お客様にも必ず定期点検を受けてもらうことを理解いただくこととした。さらに、お引渡し後6ヶ月の点検は、アフターメンテナンスというよりは実態は残工事処理に近い対応が殆どであったため、6ヶ月点検は工事監督が責任を持って実施することとし、1年目の点検からアフター要員が対応するルールに変えた。これにより、工事部門とアフター部門との責任範囲がより明確化された。

1年目点検や2年目点検の際には、点検結果をお客様にきちんと報告するとともに、保証期間が終了となることの告知と、今後の不具合に関しては有償対応になることを説明することとした。さらには、不具合とも言えないような問題で振り回されないようにするため、「トラブルシューティングマニュアル」を作成してお渡ししたり、定期的に「お手入れセミナー」を実施して、ちょっとしたトラブルや、お手入れ不足が原因の不具合にはお客様ご自身で対応できるように啓蒙活動を行った。

こうした活動を実施していくにあたっては、組織体制も強化した。アフターメンテナンス要員として工事監督経験のある60歳超の人財を嘱託社員として1名追加採用し、また事務的なサポート要員としてパート社員の女性スタッフを1名専属で置くこととした。この女性スタッフには、顧客情報の管理や定期点検のアポイント調整、点検結果記録の登録、お手入れセミナー等のイベント企画やDM作成なども担ってもらっている。

こうした取り組みの結果、アフターサービスにおけるクレームは格段に減少し、無償メンテナンスコストの削減に繋がっただけでなく、お客様の満足度が格段に高まり、知人をご紹介いただくなどプラスαの効果も出始めた。そして何より、これまでただクレーム対応に追われるだけであったメンテナンス要員たちの表情も明るくなり、自社のサービスに自信を持つように変わっていったのである。

A社の取り組みからも分かる通り、こちらの対応の在り方を「攻め」に転じることで、お客様の満足度は「不満」から「満足」に一気に反転する。結果として、それがアフターサービス要員の業務生産性も飛躍的に高める。「放ったらかし」にされるからお客様はクレームを言うのであり、きちんと定期的に対応していれば、多少の不具合でも「クレーム」ではなく「困りごとの相談」といった前向きな連絡に変わるのだ。

大手ハウスメーカーやマンションデベロッカーでは当たり前の、定期点検の100%実施や保証期間の説明といったことがまともにできていない住宅会社は、もはやお客様からの支持は得られない会社と言えるだろう。

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