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住宅版「ワークライフバランス」のススメ ~会社の利益と社員の家族の生活を諦めない〜(後編)

①部門間のムリ・ムラを徹底的に省いている

住宅会社では、「分業化」が成長を考える上でのポイントの1つであります。しかし、分業化を行うと、部門間の連携が問題となります。

部門間の連携の問題と言われると、「なるほど、それなら自分たちで話し合えば適切な業務連携を進められる」と考えられると思いますが、実際に見てみると規模の大小に関係なく、自社で適切に業務フローを構築できる会社は極端に少ないのです。

実際に、経営者や経営幹部が、発生したクレームや問題を聞いた時に「なぜ、もっと部門間できちんとコミュニケーションできていないのか。もっと、各部門が責任意識をもって仕事をしていたら、この問題は発生しないはずだ」と感じられる事が多いのではないでしょうか。

原因がコミュニケーションであると、明確であるにも拘わらず解決できないのが実情なのです。一体なぜなのでしょうか。

【要因①】
1つは、問題に向けた対策の立て方に、原因があります。この問題は、ワンマン組織とサラリーマン組織といった、組織の特性に応じて違いがあります。

ワンマン組織とは、経営者が中心となって意思決定している組織を指します。この場合、経営者はしばしば語りたい事だけ語ってルールへの落しこみをしない事が多いので、議論はかきまわされる一方で決定事項が残りにくいのです。

ワンマン組織では、目の前の問題に対しては的確な判断でも、ルール化するには不十分といった決定のされ方が多くなります。したがって、結果的に作ったルールが動かず同じ失敗が発生する事になってしまうのです。

一方、サラリーマン組織とは、現場が自分たちの仕事を進める事ばかりに集中してしまう組織を指します。この場合、現場のメンバーは自分たちの仕事の及ぶところではない部門間の連携の問題となると「上の誰かが決めてくれるだろう」と考えがちで、自分たちで主体的に解決に動かない事が多いのです。

【要因②】
またもう1つは、部門間連携を見直そうとした時に「自分たちの工程の生産性を上げるためには前段取りの生産性を上げなければならない」という視点が持てないところにあります。しかし、実際に工事の生産性を上げるためには、工事に業務を引き継いでくる営業・インテリアコーディネーター・設計の動き方を見直す必要があります。

一つの例として、元々数字に追われて活動していた営業課長が営業責任者(マネージャー)になった場合について見てみましょう。

自分の数字を上げるために一生懸命働いていた(元)営業課長は、部門間の業務連携によって生産性を上げるという視点がなかなか持てません。
したがって、間取りが確定していないのに営業が設計に図面を渡してしまったり、予算が確定していないのに営業がインテリアコーディネーターに引継ぎしてインテリアコーディネーターが仕様決めを行おうとして、やり直しになってしまったりという問題が発生しても、対策しなければいけないという意識すら持てない事があるのです。

100棟~300棟の会社で業務連携を見直すという仕事の手伝いを10社以上してきたコンサルタントによると、クライアントから「こんなに大変だとは思いませんでした」と必ず言われるとの事です。部門間のムリ・ムラをなくすという事、言い換えればコミュニケーションルールを変えていくという事はそれだけ大変なのです。

しかし、そこで苦労を厭わずやり切る事ができれば、社員の帰宅が1時間早まるなど、明らかに生産性が上がったという事を実感できるはずです。

②業務の再分配を進めている

CAD図面を自ら描いている一般的な設計が、1棟当たりにかけている時間がどれくらいになるかご存知でしょうか。答えは約100時間です。一方で、CAD図作成、構造図、申請図の外注等で、設計業務だけではなく、仕様決めも担当して1棟当たり30時間で済んでいる設計もいます。

また、ある150棟の会社は設計や監督の仕事のうち、パートでもできる業務を洗い出し、専門性の高い仕事以外はパートに役割分担を変えてしまいました。その結果、設計業務で年間2,600時間、監督業務で年間1,500時間と、併せて4,000時間以上の工数を作り出す事ができました。

もちろん、他の社員がやる業務なので業務量は変わらないのですが、専門職の社員の時間がそれだけ空くという事は大切な事です。

外注を行うかどうか、自社でパートを採用してパートに任せるかどうかは判断が必要ですが、本来その人がやらなくても良い仕事を役割分担をしていくという事は、組織の生産性を上げていく上で非常に大切なのです。

― 外注を検討する際のケーススタディ ―

コストをかけて外注すべきか、あくまで内製化してやるべきかは議論が分かれるところです。ここではどういった判断を下すべきかについて、C社の例を参考に見ていこうと思います。

C社の設計士が担当している敷地調査・役所調査・地盤改良調査について外注したいと考えた場合、地盤改良調査+敷地調査+役所調査:9万円というコストが発生するとしましょう。

一方で外注すると、通常10時間強かかっている業務が5時間弱でできるようになったとします。C社は年間250棟をやっている会社です。

C社はどのように外注を検討すべきでしょうか。

C社は250棟やっている会社ですので、外注すると2,250万の投資を行うことになります。
1件当たり外注する事で、6時間削減されるとすると、250×6時間で1,500時間(1人工の3分の2位程度)、外注すると工数が削減できます。社内でやると人件費で500万くらいのものが、外注する事で2,250万になります。

では、外注しない方が良いかというとそうではなく、この場合機会費用で考えなければなりません。
通常、設計士が会議や社内の資料作成を除くと、おおよそ1,500時間が設計に使える時間です。となると、外注する事で、おおよそ設計士が1人分の工数が確保できることになります。

住宅会社の1人当たりの売上は6,000万で粗利を仮に25%とすると、1人当たりの粗利は1,500万。ただ、設計という職種が採用しづらい貴重な人材である事を考えると、売上8,000万円分(2,000万円程度の粗利)の貢献をしていると考えられます。

そのため、対策としては、社員に余力がなく、調査業務を設計士が担当せざるを得ず、設計士が不足しているのであれば、採用教育コスト等の比較でアウトソーシングは積極的に考えるべきです。

ただ、社員に余力があり、設計士以外での担当が可能であれば、2,250万円分の外注費を考えると内製化する事が合理的です。

③生産性を図る事ができる指標が明確になっている

 生産性を図る事ができる指標とは、例えば「設計士や監督が年間何棟担当できるのか」「設計士が何回打ち合わせをすれば間取りが決まるのか」などの各社ごとの数値を指します。

ある会社では、移動を除いて1棟当たりに何時間時間をかけているのかを分析しています。この会社の監督の生産性は1棟当たり65時間で、年間20棟を見ている状態でした。ここから、130棟見るにはどうすれば良いかというところを突き詰めていくと、監督が家づくりにかけられる時間は1,500時間であったので、30棟見るには1棟当たり50時間に減らす必要性が出てきました。

1棟当たり65時間から50時間に減らすために、どこに時間がかかっているのかを確認し、監督の現場への訪問回数を減らす方法はないか、監督の業務の中でパートに割り振れる業務はないかなど、非効率な仕事を減らす効果的なやり方を分析しました。

結果、ローコストの自由設計でも監督1人で30棟見れるような組織を作り出す事ができました。

生産性向上の取り組みは漠然とやっても意味がありません。基準となる指標を決めて、どのように取り組むかを明確化する事が重要なのです。極端に言うと、指標を決めるだけで生産性があがるといっても過言ではありません。

④理念と生産性のバランスを突き詰めている

生産性を突き詰めていくと自社がこだわっている家づくりとぶつかる事があります。

たとえば、設計士やインテリアコーディネーターはお客様のこだわりを徹底的に形にしてあげたいと考えています。その設計士やインテリアコーディネーターに対して、打ち合わせ回数の削減を求めると、設計士やインテリアコーディネーターはお客様の希望を最大限実現できないのではないか、自分たちがやりたい家づくりができないのではないかと感じてしまうのです。

生産性を追求するあまり、シンプルな規格住宅を進めていこうとして「こだわりの自由設計」をやっていた社員が辞めてしまった事例もあります。

では、設計士やインテリアコーディネーターがいうようなこだわりの住宅を追求していくだけで良いかというと、一方では、会社の利益が打合せが伸びる事で圧迫されてしまったり、仕様が決まらず職人の手配が直前となり、手待ちや手戻りが発生してお客様にご迷惑をおかけしたりする結果が生じます。

そのため、生産性を追求する際には、必ずどういった家づくりをするべきなのかを考えるべきですし、必ず一方で生産性の視点も持つ事が大切になるのです。

ここで、理念と生産性のバランスについて考えているある会社(以下D社)の例を紹介します。D社では設計士が15回、インテリアコーディネーターが18回打ち合わせを行い、監督は現場に40回行っています。こんなに打合せを行ってしまうと十分な収益が上がらないのではと感じてしまいます。

一方で、D社の社員たちは、丁寧な家づくりをしたいので、なるべく上記の打合せ回数はやっていきたい、なるべく設計士とインテリアコーディネーター、インテリアコーディネーターと監督が一緒に面談する回数を増やして、コミュニケーションロスをなくしていきたいと考えていたのです。

そこで、D社では、手戻り、手待ちがないように業務フローを明確にし、設計士、インテリアコーディネーター、監督の1ユニットで何棟まで契約すべきなのかの目標を考えて、それだけの打合せ回数をやりながらも経常利益が4%5%を実現する体制を実現し、自分たちの家づくりのこだわりと会社の収益を両立させたのです。

D社のように、自社の生産性や会社の利益とお客様に提供したい家づくりという、自社の理念のバランスを考えていくことが大切なのです。

■ ワークライフバランスに優れた企業になるために

住宅会社には、仕事とプライベートを上手く両立できている会社とできていない会社がはっきり分かれています。この差を埋めるためには、何をどのような順序で進めていくべきでしょうか。

まずやるべき事は、組織の目標を決める事です。
年間何棟で、どれくらいの収益性を実現したいかを設定します。そして、そのために必要な組織体制を考えます。そうする事で、どれくらい人を育成しなければならないか、どれくらい1人当たりの生産性を上げなければならないのかが見えてきます。

次に、業務フローの作成を行います。その際、各業務の前段取りを意識した業務フローを作る事に注意する必要があります。
また、業務連携なので、社長と各事業部のトップ(営業部長、設計部長、工務部長)が参加し、共通認識を持つ事も、同様に重要です。

業務フローを明確にした後は、各業務の開始条件(準備物)と終了条件(そのフローが終わった後のアウトプット物)が何かを11つ確認していきます。それを決める事で、前の業務の決定事項は後の業務の前段取りになるので、どこまで業務の品質を上げなければならないのか、いつまでに業務を終わらせなければならないのかが分かるようになります。

面白いのは、業務フローや進捗ルールの検討をしていると、普段会議の場で意見を言わないような工務担当からも、積極的な意見が出てくる事です。

普段、「どんな会社にしたいか」など抽象的な質問をぶつけても答えはなかなか返ってきません。しかし、自分が現在担当している業務の問題点と改善点が目の前で可視化されるとなると、積極的に意見するようになるのです。

結果的に意見を出せば改善されるという流れができるので、積極的に発言する組織になってきます。業務連携を考える事は、組織風土の改善にも役立つのです。

業務の開始条件と終了条件の設定が終わったら、各業務における工数がどれだけかかるのか、自社の標準値を決めます。すると、各部門が1棟仕上げるのにどれくらい工数をかけているかが見えてきます。

工数を出す事で、自社の生産性を上げるための指標ができ、「65時間を50時間に縮小する」といった明確な目標が設定できるようになるのです。極論を言ってしまうと、この基準値を決めるだけでも生産性は上がります。

以上の流れを踏まえる事で、目標を達成するためには各部門の生産性をどこまで上げていかなければならないのか、新人を入れた時にいつまでに戦力化しなければならないのか、パートを入れて役割分担を見直さなければならないのではないかなど、対策を検討する事ができます。それを事業計画書に落としこみ、推進していくという流れになります。

ここまでをきっちりやり切る事ができれば、生産性は間違いなく上がり、社員のプライベートの時間を確保する事が可能になるでしょう。

 

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