■ 住宅会社におけるワークライフバランス
ある会社の社員にインタビューをしたところ、「退社時間といえば毎日24時以降、11月は1日しか休みがなかった。組織の改善が進まない中で、やりがいを持って働けている社員は1人もいないのではないか。頑張って働いているのは、お客様にご迷惑をかけないためだ」と仰っていました。採用が上手くいかない事で、社員が悲鳴を上げているのです。
一方で、若手の社員が、担当物件を持たざるを得ない状況の中で発注や職人さんへの連絡の遅れ等から、職人さんの手戻り・手待ちが発生して「この会社の仕事はやりたくない」と、職人さんから仕事を受けるのを避けられてしまっている会社もあります。
とはいえ、即戦力を採用しようとして募集を出しても、なかなか良い人材が獲得できないのも全国共通の状況です。現在の住宅会社はこのような当面の受注残への対応に追われながら、将来の市場の縮小への対策を考えなければならないという、難しい経営の舵取りを迫られています。
今回は、異業種でしばしば耳にするようになった「ワークライフバランス」という視点から、現在の住宅業界の問題点を考えるというテーマでまとめています。
「やりがいを持って仕事を行い、会社の収益をきちんとあげ、一方で私生活も犠牲にしない」そんな会社を作っていくための一助になる事ができれば幸いです。
ケース①A社の事例
A社は年間250棟注文住宅を販売している住宅会社です。
家の平均単価は2,500万弱で、監督1人で年間25棟監督する事ができています。(監督は積算・実行予算組まで担当しています)
同社はもともと平均退社時間が22時でしたが、2年前に21時、昨年から20時と、棟数を伸ばしながらも毎年帰宅時間を1時間ずつ早めており、地元エリアにおけるシェアを高めながらも、筋肉質な会社を作り上げてきました。
この会社の社員数を仮に100名とします。
100名が年間260日勤務し、彼らの帰宅が皆2時間早まったとすると、100名×260日×2時間=52,000時間分の人件費が節約できたということになります。
社員1人当たり会議や移動を除いた家作りに使えている時間を2,000時間前後とすると25人程度の時間となり、仮に社員1人の人件費と経費で800万とすると、実に2億円前後の金額に相当します。
もちろん、生産性を上げても、少ない社員で遅くまで働く事で、自社の利益とする事もできますが、A社では社員を早く帰宅させる事で、社員と社員の家族の生活を豊かにしているのです。
ケース①B社の事例
B社は、60棟から120棟に伸ばしてきた会社です。
社員数も25人から50人と増える中で、B社もA社と同様に以前より1~2時間早く退社できています。会議も週1回のペースで実施していても、多少のクレームが発生していた状態から、月1回のペースで実施しても問題が発生しなくなりました。
B社の特筆すべき内容としては、B社は採用に困らなくなったといいます。
実は、B社の社員が非常に気持ちよく働けているという状況が業者さんや職人さんの口コミで他社の社員に伝わり、是非B社で働きたいと優秀な人材が集まるようになったのです。
■ ワークライフバランスに優れた会社の特徴とは
では、A社やB社を始め、ワークライフバランスに優れた会社はどういった特徴があるのでしょうか?
我々が調査した所、共通点として以下の4項目を発見しました。
①部門間のムリ・ムラを徹底的に省いている
②業務の再分配を進めている
③生産性向上のための指標が明確になっている
④理念と生産性のバランスを突き詰めている
次ページでは、上記の項目について1つずつ具体的に見ていきたいと思います。