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クレームよりも怖ろしいメンテナンスリスクへの対策 ~地域密着会社にとっての最大の課題への向き合い方〜(後編)

■ ほとんどの社長は把握できてない、メンテナンスリスクの実態

ここまでの内容は経営者の皆様にとっては耳の痛いお話であったかと思います。ただ我々が整備しておかなければならないことは、まだまだあります。そこで、まず取り組んでほしいことは「無償メンテナンスコストを正確に把握する」ということです。

現在、多くのビルダーでは「無償定期点検保証制度」というアフターサービス制度をとっていらっしゃるのではないでしょうか。しかし、この無償点検による無償メンテナンンスで発生する費用(コスト)は、今後、経営を左右する最も大きなテーマになってくるものと考えるべきです。

会社によって多少の差はありますが、無償メンテナンスコストの実態はおおよそ以下のグラフに示されます。

 

例えば、毎年コンスタントに50棟ずつ着工していくビルダーの場合、20年間経営をして1,000棟の引渡し物件があることになります。その場合、累計で15,100万円の無償メンテナンスコストが発生しているという計算になります。

一年間の平均で見れば750万円程度のコストという見方ができるので、「なんだそれほどの額でもないか」とお感じなるかと思います。しかし、明らかに新築需要減少の影響を受けて受注棟数減少が確実なビルダーはもちろんのこと、ここ数年で急成長しているビルダーにとっても、実はこれ以上にリスクがあることをしっかりと把握して頂きたいのです。

ここからは少し複雑な要素も含まれてきますが、分かりやすく整理してみたいと思います。

まず結論からお伝えしますと、これら無償で発生しているメンテナンスを有償化し、さらにはそれを事業として取り組まなければならないということです。では、なぜそうしなければならないのでしょうか。

一般的に我々のビジネスは新築時にその利益のほとんどを計上してしまい、利益の一部を税金で納めた後に残ったキャッシュで、完成引渡後のアフターメンテナンスを行うというモデルだということです。

これが普通であると思っている方も多いので分かりづらいかもしれませんが、他のビジネスではアフターメンテナンスコストを引当金として決算時に繰入れておきます。こうしたことは、当然としてあるべき姿であると思われるでしょう。

しかし、住宅会社の場合、この無償修繕引当金(無償メンテナンスコストとして引き当てる金額)が常に確定しない、つまり毎年毎年発生する金額が大幅に変わるため、簿外の債務として保有せざるを得ないとされてしまっている常識が存在しています。例えば、お施主様から一棟建て替えを要求されるようなレベルの大クレームが一件発生したりといったことやそこまではいかなくても、大幅な追加工事が必要なクレームが発生した場合は、その年度だけで無償修繕費が税引き前利益を大きく圧迫するというような事態が発生してしまうということです。

しかし、これまでのように着工数が増加していく局面では、前者のビジネスモデルでも問題はなかったわけですが、これからの局面では、引渡し物件総数が増えれば増えるほどメンテナンス費用も増大していくわけですから、最終的にはキャッシュフローにも大きな打撃を与えることになります。

これから新築受注がさほど伸びないことが明らかなビルダーにとっては喫緊の課題であることを肝に銘じて頂きたいと思います。

また、ここ数年で急成長しているビルダーにとっては、新築営業とその着工対策などに経営の着眼点が集中してしまい、さらに目が行き届かないテーマとなるのですが、引渡し後1~3年目で発生する無償メンテナンス費用比率は圧倒的に高くなります。

したがって、急成長をすればするほどやはりこの問題は突然キャッシュフロー問題として現れてきます。

その問題に対する対策として、「顧客満足のためにはアフターメンテナンスを無償で行うのは当然」という意識を変えて、これを逆手にとってきちんとした長期にわたるアフターメンテナンス体制を構築し、有償メンテナンスの意義を引渡し前から顧客に説いていけば、なんら難しいことではありません。

■ 見えづらくなっている無償メンテナンスコストの実態

しかし、アフターメンテナンス体制を構築するという課題解決への取り組みはどうしても後回しになります。そこで、社長が現実を直視頂くためにさらに耳が痛い、目を背けたい実態のお話をしておきたいと思います。

まず、先述しました無償メンテナンスコストの平均金額は、あくまで経理上残っている「外注費」および「材料費」のみの数値だけであることを追記しておきます。つまり、実際はこれ以上のコストがかかっています。例えば、アフターメンテナンス専属要員以外の方が無償メンテナンス対応をした場合の人件費コストなどが、それにあたります。

多くのビルダーでは、アフターメンテナンス要員を専属で割けていないことが多く、実際は工事監督担当が対応しているかと思います。

この工事監督担当の気持ちは、「点検に行くだけであればいけるが、そのあとの処理があるので、単純に点検だけですまないという点が(訪問)意欲を下げている」「点検に行って期間があくとまたその間に何かが起こっている」というものです。本当は間をあけずに行くほうが良いが、行くタイミングを逃してしまうと一層訪問を遠ざけてしまうといったところではないかと思います。

したがって、「新築工事で忙しくて対応できないから、お施主様から催促の連絡が来るまで放置しておこう…」ということになるわけです。

また、点検等で訪問した際にでも、「見積もり折衝、契約書取り交わし、工事代金回収まで時間がかかる…。めんどうだから有償だけど、無償でやっちゃえ!!」ということになり、実際には無償メンテナンスコストはこういった部分が水面下に埋もれていってしまいます。

ひどいときには次のようなケースもあります。「クレームをもらったと言うと会社で怒られるから、補修は新築の業者を連れてって新築工事経費で支払っちゃえ」「業者会の運営費用から今回は賄っておけ」等。

 

 

メンテナンンス体制を構築しないことから発生する悪循環のサイクルを上図で示しておきました。

ここまで記載すればいかにこのテーマが抱えている問題が深刻かがお分かり頂けたのではないでしょうか。

えっ?まだ分からない…。

衰退する企業の第3段階…。もう一度確認してみてください。まだ間に合います。

 

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