Column

コラム


海外視察ツアー2018 in America 

好況が続くアメリカ不動産市場を見る

リブ・コンサルティングは、当社ファイブスタークラブ会員と、海外の不動産事情に関心を持つ参加者を対象に海外の不動産や街づくりを視察するツアーを実施。
訪れたのは、アメリカで最も住みたい街といわれているポートランド(オレゴン州)と、IT企業の聖地シリコンバレー(カリフォルニア州)です。今回は、ツアーで垣間見た二つの都市の特徴をレポートします。


【From ポートランド】
「変わり者の街」は人口増加で物件価格が上昇中

ポートランドは人口60万人ほどの中規模な都市で、豊かな自然と温暖な気候が特徴。かつて多くのヒッピーが訪れた街で、アメリカ国内の他の都市とは違う独自の文化を培ってきました。

街のスローガンは「Keep Portland Weird」で、「ポートランドは変わり者であり続けよう」という意味を持ちます。脱車社会を掲げ、いち早く環境保護に着手したのもポートランドですし、ヘルシーフードも世間の注目を集める前から市民に人気でした。街中を自転車で移動する人も多く、街中を走るバスや路面電車などには自転車を乗せるラックも取り付けられています。

不動産関連では、住居、会社、スーパーマーケットなど商業施設を集約したコンパクトな街づくりをしている点が特徴です。徒歩移動に優しい広い歩道と木陰を作る樹木があり、自転車専用のレーンも整備。住環境では、大量保有と大量消費の対局ともいえる小さく質素なタイニーハウスが誕生したのもポートランドで、ヒッピー文化から派生したこのような考え方もポートランドが変わり者である要素の一つになっています。

 一般的な住居は、平均価格が4,000万円前後で、西海岸では安い方といえるでしょう。ツアーで見学した分譲住宅は、売り出し価格が5,0006,000万円の家で、ガレージが大きなウッドデッキ付きの家でした。

しかし、中古物件の売買価格は年々上昇傾向にあり、現地で不動産を案内してくれたガイドによると、最近は郊外の家でも5,000万円前後で売買されることがあるといいます。

理由は、需要と供給のバランスです。全米で最もっとも住みたい街、若者が住みたい街などとして注目が集まり、人口が着々と増えてきているため、購入可能な部件数が減っているのです。

特に不足しているのがアフォーダブルハウスと呼ばれる手頃な価格で買える物件で、平均的に見て低所得の人が買える物件は全体の9%しかありません。

そのような状況を踏まえて、例えば、市が建売のビルダー向けに低価格帯の家を作る規制を敷くなどして、供給量を増やす取り組みも検討されています。


【From シリコンバレー】
不動産テックが暮らし方を変え、売り方を変える

ポートランドに続いて訪れたのがシリコンバレーです。

目的は、昨今注目を集めている不動産テック(家とITの組み合わせ)の現状と、最新技術を駆使したスマートハウスを見に行くためです。

スマートハウスはIoTハウスなどとも呼ばれ、家の設備や家電などをつなぐことによって一括操作できるのが特徴。この分野には、アマゾンをはじめとする大手IT企業が参入しています。また、現地で2016年に創業したHOMMAが日本の住設機器メーカーなどと提携し、プロトタイプのスマートハウスを建設。視察では、HOMMA ONEと名付けられたスマートハウスを見学しました。

スマートハウスは、家の内外からあらゆる設備をコントロールできるのが特徴です。例えば、外出先からセキュリテイカメラを確認したり、庭のスプリンクラーや各部屋のライトのオン・オフを声で操作したりすることができます。

ただし、そのような近未来型の家や暮らし方にどれだけ需要があるかは未知数です。先行して建てられているスマートハウスも、実需をつかむための実験的な意味合いがあります。

また、日本で流通する物件は8割が新築、2割が中古住宅ですが、米国はその比率が逆転しています。スマートハウスは基本的には新築ですので、新築2割という市場構造がスマートハウスの普及にどう影響するかも慎重に見ていく必要があるでしょう。

不動産テック関連でもう一つ印象的だったのは、物件の販売、営業活動、売買手続きといった流通部分でもIT活躍が進んでいる点です。

例えば、REDFINという会社は、物件情報のポータルサイト内で中古物件の情報を提供するとともに、自社で仲介も行っています。また、エージェントと呼ばれる物件仲介の担当者を選び、サイト経由で依頼することもできます。

エージェント向けの支援では、顧客リストの中で物件を売りに出しそうな人を選別し、アラートを出すソリューションがあります。また、売買契約を電子化し、インターネット上で決済や登記ができる仕組みも確立しつつあります。業務や手続きのIT化が進むほど、売買にかかる時間は短縮されるでしょう。現地のガイドによると、インターネット経由で中古物件の売買を行う場合、最短2日で手続きが終わるケースもあるそうです。


【最後に】
日本に波及していく可能性について

前述の通り、日本とアメリカでは新築物件と中古物件の比率が逆で、市場構造も大きく異なりますが、中期的に見て、このようなIT活用の流れが日本にも波及していく可能性は十分にあります。

ITの活用は生産性向上につながり、営業活動を強化していく上でも、ITソリューションを導入して先進性を訴えることが優秀な人財を確保することにも結びつくはずです。

経営においては、市場やターゲットを絞り、掘り下げることも大事ですが、それと同じくらい、次なる戦略の可能性を広げることも重要です。

ポートランドとシリコンバレーで起きていることが、もしかしたら10年後に日本で起きているかもしれません。その可能性も考えながら、海外市場の動向に視点を向けてみてください。