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「市場縮小」×「寡占化」における戦略オプション~時代の変化を表す「4つのキーワード」と 地域ビルダーの「4つの戦略オプション」~(後編)

3.流動性

今後、業界の変化で考えられるのが、「規模の追求」から「らしさの追求」へとシフトする企業が業績を伸ばすという潮流です。

例えば、ネット専門の生命保険会社として話題の「ライフネット生命」や、ソーシャルゲームプラットフォームのモバゲーを運営する「DeNA」などはその一例です。

ポイントは、社員数を多くして売上を上げていくという従来のスタイルから、業務領域を自社の強みに特化して、弱みの部分はアウトソーシングすることで、人件費などを削減し、価格優位性を持ちながら利益をあげていく体制へとシフトしていることです。
そして、このローコスト経営の潮流は、住宅会社においても徐々に見られるようになってきています。

例えば、設立4年で社員数25人ながら年間120棟を達成しているK社があります。K社では、優秀な設計士と個人契約を結び、人件費や社内での調整コストを削減すると共に、工事も外注することで後工程を徹底的にアウトソーシングしています。
K社の取り組みは、ビジネスにおける儲け方を説明する「スマイルカーブ理論」の考え方を基にしたビジネスモデルの転換と言えます。

スマイルカーブとは、元々は電子機械産業で使われていた言葉ですが、横軸の時間の経過(業務フロー)と縦軸の営業利益率(付加価値率)を示しており、真ん中に位置する製造部門が最も利益率が低く、両端の企画開発部門、メンテナンス・アフター部門が、利益率が高いことを示しています。

K社は、ブランディングを徹底的に強化することで安定的に顧客を獲得すると共に、利幅が大きい商品企画や営業といった前工程の業務のみに集中し、利幅の小さい設計・建築はアウトソーシングするという「持たざる経営」の中で順調に業績を伸ばしています。

▼ 住宅業界におけるスマイルカーブ
※ビルダーズシステム研究所作成の図を一部加工

 

 

4.ライフタイムバリュー(LTV)の最大化

エリア内で一定の規模やシェアを獲得した企業は、同じ商品ではそれ以上のシェア拡大を望めないという状況に陥ります。
そうなると、エリア拡大をするのか、同じエリア内に留まり、新たな商機を生み出すのかという2つの選択を迫られます。
後者を選択する場合には、自社の持っている資源(顧客基盤)を活かして、ビジネスを進化させるという発想の転換が必要となります。

例えば、アップルのiTunesがその好事例です。CDDVDによる音楽・映像の販売が当たり前だった時代、著作権と既得権でがちがちに固められた音楽業界や映画業界を説得し、iTunesを通して自由にコンテンツをダウンロードできる仕組みを作り、それによりハードを購入した後もソフト面で収益を上げるイノベーティブなシステムを構築しました。

市場シェアの限界まで伸ばした会社が、事業を発展していくためには、顧客が生涯に住宅関連及びその周辺に支払う費用を自社にできる限り取り込む必要があり(LTVの最大化)、そのために「事業の多業態化」が必要となってきます。

また、LTVの最大化を図るためには顧客との「つながり」を維持し続け、後行程で発生する営業コストを最小限に抑えた状態で収益を上げていく仕組みが必要となります。
LTVの最大化」に向けた取り組みを行っているのがW社になります。W社では、リフォームやメンテナンスの積極的な獲得、火災保険や生命保険・瑕疵保険といった保険の手数料収入、24時間コール代行サービスの代行手数料獲得といったLTV最大化に向けた取り組みを、全社を挙げて取り組んでいます。

結果として、「LTVの最大化」に向けた活動による売上自体は、全売上の2割に留まっていますが、営業利益の7割を占める状態を生み出しています。

4つの戦略オプション

これらキーワードを基に、中長期的に伸びていくために地域ビルダーの取りうる戦略についてお伝えしていきます。
今後の戦略を考える上で重要なのが「事業の捉え方」と「流動性」の2つの軸になります。

「事業の捉え方」では、住宅事業を家という商品を提供する「モノ産業」と捉えた従来型の事業モデルを進めるのか、家という商品を基軸に付加価値を生み出す「サービス産業」と捉えて新たな事業展開を追求するのかという2つの視点あります。

「流動性」では、多エリア展開を進めるのか、それともエリア深堀を進めるのかという2つの視点があります。
この「事業の捉え方」と「流動性」という2つの軸を基に考えると、今後の戦略に4つのパターンが考えられます。

1.エリアハウスメーカー

1つ目の戦略は、既存の新築事業の延長線上で既存のエリアを深堀する「エリアハウスメーカー戦略」になります。

この戦略では、展開エリアで20%以上という限界シェアを獲得することで、市場動向へ影響を与え、高利益体質を実現できる体制を作ることがポイントになります。また、この戦略を実現する上では、「限界集客」の実現が不可欠であり、そのために、自社のブランドを磨き集める「会社・建物集客」、自社のブランドでは反応しない土地なし客を集める「土地集客(レスポンスサイト集客)」、そして、潜在客を集める「イベント集客」という3つの柱を構築することが必要となります。

2.ストック循環型ビルダー

2つ目の戦略は、既存エリア内で顧客からの収益を最大化するための「ストック循環型ビルダー戦略」になります。

この戦略では、顧客のライフタイムバリュー(LTV)を最大化するための「信頼の形成」と低単価で非連続的に発生する事業機会の「損失の最小化」がポイントになります。そのため、カスタマーサポートの窓口や定期的なイベント開催などによる顧客接点の構築、そして、こちらから能動的に仕掛けるための顧客管理システムや住宅履歴の蓄積が必要となります。

3.全国展開&グローバルメーカー

3つ目の戦略は、従来型の新築事業モデルを基にエリアをまたいだ展開をする「全国展開&グローバルメーカー戦略」になります。

この戦略では、生産性の高い組織体制を作ることで、利益を最大化させることがポイントになります。

そのため、成果を最大化させるための「ハイスピード・マネジメント」体制や、メンバーのモチベーションを維持するための「人事評価体制」などの管理機能を強化し、組織を作っていくことが必要になります。

▼地域ビルダーの4つの成長戦略と成功ポイント

 

4.ブランドメーカー

最後の戦略は、強いブランドや独自のノウハウを基に新たなビジネスモデルを生み出す「ブランドメーカー戦略」になります。この戦略では、アウトソーシングを基にしたビジネスモデルを構築できる高いビジネス・プロデュース力による固定費の抑制が成功のポイントになります。
そのため、プロデュース力を最大限に発揮するための協力会社のネットワーク構築や共同仕入などによる管理機能の強化が必要不可欠になります。

また、協力会社を増やすために、自社のカンバンで十分な集客ができるブランド集客力や、他エリアでも同等の成功を生み出すノウハウのパッケージ化といった協力会社を引き付ける魅力の構築が必要となります。

■ 終わりに

今後の地域ビルダーが取るべき「4つの戦略オプション」ということで各々の特徴と成功のポイントについて、お伝えさせていただきました。

誌面では限界があるため、各々の戦略を進めるための具体的なポイントについては十分お伝えできておりませんが、より具体的な内容やこれら戦略を実行に移すためのポイントについて知りたい方はお気軽にお問い合わせください。

登る山が変われば、それに対する準備も変わります。だからこそ、自社の将来を描き、今どのような準備が必要なのかを好調な今だからこそ考えていただきたいと思います。

 

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