前回は、日本ビルダーの海外展開パターンをお伝えいたしました。
今回は、海外(特に東南アジア)に展開をする上でハードルになる注意点についてお伝えいたします。
1.伝えるのが 難しい日本品質の良さ
海外に進出する企業の多くは、「日本の技術」を強みに、現地で付加価値を付けようと試みますが、下記のような理由で、現在の東南アジアの状況では「日本の技術」を強みとして展開するのは難しい現状があります。
ⅰ 高温多湿の気候とシロアリの問題から木造ではなくレンガ造やRC造が主流である
ⅱ 日本の品質を再現すると現地の需要に対してオーバースペックになる
ⅲ 専門の職人がいない環境で日本の施工技術が再現できない
工法の違いや施工技術力の違いから、「自然素材」「間取りの自由度」「高気密高断熱」など、日本で強みとしていた部分が出しづらいことに加えて、ジャパンクオリティを再現しようとすると原価が大幅に上がってしまい、現地のニーズと販売価格がかけ離れてしまう現状があります。
現地のニーズをうまく捉えながら、自社の強みのどの部分を生かしていくかがポイントになります。
2. 離職率20%の壁
海外進出に際しては、現地法人の組織面でもハードルが大きく立ちはだかります。
図1は、東南アジア各国の20代大卒雇用者の転職回数の分布を示しています。
日本人も近年若者の転職が増えているといわれていますが、日本のデータでは、男女ともに転職回数0回が70%以上となっています。
一方で、東南アジア各国を見ると、20代で転職回数が複数回ある人が50%程度、2回以上の転職経験者が30%程度になっており、住宅産業における離職率は20%/年以上といわれています。
また、法律面でも東南アジアの多くの国では、日本よりも労働者保護の色が強い労働法になっています。
時間外手当が高額になるため、基本的には「残業ゼロ」が当たり前の文化となっています。
他にも、例えばタイの法律では「遅刻者にも通常給与の支払いが必要」「産休時にも一定期間100%給与支給が必要」「1年以上の勤務者には自己都合でも3カ月の退職金が必要」など、経営の観点で大きな費用負担になります。
そのような状況の中で、離職率を低く抑える取り組みをしている企業は、
・中長期的な目標設定面談の実施
・公平な評価制度の策定
・毎年の全社員旅行実施
など、日本での人事施策以上に、組織づくりに力を入れることにより、5%前後の離職率に抑えることに成功しています。
3. 販売戦略の異文化への対応
自社の商品戦略・組織戦略が固まったとしても、販売戦略が固まらないと利益につながりません。
国内でのマーケティング活動、営業活動に自信がある企業でも、他国での販売は容易ではありません。
マーケティング面では、日本で主流の「チラシ」「ホームページ」といった集客ルートは東南アジア各国では主流ではなく、「看板」での集客が50%以上という状況です。
また広告媒体に打ち出すポイントも異なります。
「立地」や「金額」が主な購買決定要因となる東南アジアでは、「ディスカウント情報」「購入者特典」などが集客増につながります。
販売面では、前述のように離職率20%以上という状況の中で、営業マンの教育による営業力強化をしても人が入れ替わってしまうため、仕組みで販売力を強化することが重要になります。
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最終回の次回は、海外進出を検討する上での事前準備についてお伝えいたします。
※「新建ハウジング」弊社コンサルタント寄稿記事より転載
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