地場ビルダーの海外展開が急増している状況の中で、
前回は、海外市場の魅力についてお伝えさせていただきました。
今回はその中でも有望なタイの市場性と日本企業の進出事例を
お伝えしてまいります。
1. 今後の市場拡大の期待大
最初に取り上げる国は、ASEANの中で日本企業の進出企業数1位、
また、今後の進出検討国ではベトナムに次いで2位のタイです。
タイは、国土が日本の約1.4倍、人口6700万人、平均年齢37歳、
1人当たりGDPもシンガポール、ブルネイ、マレーシアに続いて
第4位とASEAN各国の中では発展している国の一つです。
ASEAN諸国の中でも、戸建て住宅比率が全国で77.3%、首都バンコクでも
45.7%(Thai National Statistics Office,2011年)と高く、コンドミニアム・
マンションが主流の国と比較して、タイは住宅・不動産会社が自社の強みを
生かしながら進出を検討しやすい国の一つでもあります。
国民の10%以上に当たる800万人が住むバンコクでは現在、鉄道インフラの
整備が進んでいます。それに伴い、新しく駅ができる予定のエリア周辺で
分譲地開発・マンション開発が進んでいる状況です。
新築着工戸数も、2011年は洪水の影響で減少しましたが、それ以降は
堅調に推移しており、今後の市場拡大が大きく期待されています(図1)。
2. 大きい収入格差
2016年のバンコク商圏における価格帯別の販売戸数を見てみると、土地+建物
価格で800万円程度の物件が最も売れているようです(図2)。
現状のタイ全国の平均世帯所得は約100万円、バンコクの平均世帯所得は
160万円程度です(図3)。
また、上位20%と下位20%の平均世帯所得の差が10倍以上と所得格差が
大きいことも東南アジアに共通した特徴です。
住宅市場においても、富裕層をターゲットにした超高級市場と一般層をターゲット
にした市場に明確に分かれています。日本企業が進出を検討する際には、
どちらの市場を狙うのが良いか、十分に検討してから進出することが重要です。
3. 住宅金融が今後の市場成長のカギ
日本においては、住宅ローンの整備が住宅市場の成長の一翼を担いました。
東南アジアにおいても、住宅金融市場の成熟が今後の住宅市場の成長に大きく
関わってくると思われます。現状のタイの住宅ローン金利は5〜7%と非常に高く、
また長期の固定金利もありません(最長2年程度)。
借入期間は最長35年のローンがありますが、60歳までに完済をしなければいけない
などのルールがあります。返済負担率の制限は40%と比較的緩いようですが、
高いローン金利と短い借入期間を考えると、中間層が借り入れできる金額には
限度があります。
この結果、中間層が新築住宅を購入するハードルは高くなっています。
ただし、現状ではバンコク周辺は不動産バブルが起こっているといわれており、
例えばマンション価格はこの5年間で年平均5%程度上昇しています。
ですから、キャピタルゲインおよび賃借料を見込んだ無理なローンで投資用に
住宅購入をしている人が多いのも実態のようです。
いずれにせよ、今後住宅市場が大きく成長するためには、住宅金融市場の成長
を待つ必要があるでしょう。とはいえ、高所得者層に絞れば日本と比較しても
同等・それ以上の所得を持っている人も多くなってきています。
次回は、タイに進出している日本企業の状況をお伝えします。
※「新建ハウジング」弊社コンサルタント寄稿記事より転載