海外展望Vol.2 マレーシア 首都クアラルンプール
~日本人の移住先人気ナンバーワンの国~
マレーシアは、ASEAN諸国の中で一人当たりGDPがシンガポール、
ブルネイに続き3番目に高く、人口増加に伴い住宅需要は伸び続けている。
若い世代の人口比率が大きく、また出生率も高いため向こう30年間は
人口増加が続くと見込まれている。
昨今は日系の住宅関連事業者の参入も活発で、マンション事業、
戸建て住宅事業、内装業、不動産仲介サービスなど様々な領域で
日系企業が躍進中だ。
現地事業視察では、そうしたマレーシアの住宅不動産市場について、
現地で活躍されている方々とのお話や実際の現場に足を運びながら、
その可能性を探ってきた。
マレーシアの人口は2012年時点で2933万人と少ないながら、
着実な経済発展に伴って住宅の着工戸数は伸び続けている。
2000年には約18万戸であった市場が、201年には約20万戸まで拡大した。
実際に現地に足を運んでみると、クアラルンプール市内は開発ラッシュで、
鉄道や商業施設のほか、多くのコンドミニアム(マンション)の建設が
目立っていた。
クアラルンプール以外でも、シンガポールに隣接するジョホールバル市内で、
「イスカンダル計画」という大型開発計画が進行中だ。
これは、東京都とほぼ同じ面積の土地に、多角的工業団地のほか、
大学やテーマパーク、高級住宅地などを建設する都市計画である。
この計画には日本の三菱商事も深く関わっている。
またマレーシアは非常に持ち家率が高いことが特徴の一つだ。
直近(2010年現在)のデータでは、持ち家率が全国平均で約8割となっている。
その要因を現地の不動産に詳しい方々のお話から探ってみたところ、
マレーシアでは不動産価格が上昇し続けていることもあり、
実家から独立するときには賃貸ではなく持家(購入)を選ぶことが
当たり前になっていることが最大の理由ではないかと思われる。
両親が住宅購入を資金面で支援することも一般的だそうだ。
ですから逆に、賃貸専用のマンションというのは殆どなく
(あっても公営のアパートぐらい)、実家で家族と暮らすか、
独立して家を持つかのどちらかのケースが大半とのことだ。
マレーシアの新築住宅は価格階層別に大きく4つに分かれている。
最上級に位置づけられるのが、やや郊外にある高級住宅街の戸建住宅だ。
広さは200坪以上が当たり前で、建物単価も5000万以上が殆ど。
パナホームなど日本のハウスメーカーが参入している市場でもある。
それに次ぐのが大型ショッピングモールなどに隣接して立つ
高級コンドミニアム(3000万円以上)。
共用設備やサービスも充実しており、外国人居住者にも人気が高い物件だ。
三井不動産レジデンシャルなどがこの市場に進出している。
それよりもやや価格帯が低いコンドミニアム(2000万円前後)は、
中流階級層に人気がある。
マレーシアは車社会のため、駅からの距離などは資産価値には
影響しないそうだ。
それよりもやや低価格帯に位置づけられるのが、郊外の長屋式戸建住宅で、
50坪程度の広さで1000万円前後の物件が多くある。
大家族が一般的なマレーシアでは、3世代が共に暮らすことも珍しくないそうだ。
以上がマレーシアの住宅不動産市場の特徴と言える。
我々日本の企業が進出を考える上でもう一つ注目すべき点が、
移住国としてのマレーシアの人気の高さだ。
(財)ロングステイ財団の調べによると、2006年から現在まで7年連続で、
日本人が移住したい国ナンバーワンにマレーシアが選ばれている。
ハワイやニュージーランドといった一見人気の高そうな国を押さえて、
堂々の1位なのである。
その理由について、現地で伺ったところ以下の8つのマレーシアの
魅力が見えてきた。
① 世界でも最も自然災害が少ない地域であること
(地震や台風災害がほとんどない)
② 東南アジアでも有数の治安の良い国で、政情も安定していること
③ 一年中、気温が安定していること
(通年、最低気温24℃前後・最高気温33℃前後)
④ 英語が公用語であること(市場でもタクシーでもどこでも英語が通じる)
⑤ 親日国家であること(ルックイースト【日本に見習おう】政策の影響)
⑥ 日本より生活費が安価で、税金負担も少ないこと(住民税、相続税がない)
⑦ 医療水準が高く、先進国並みの医療施設が整っていること
⑧ 長期滞在ビザ、永住ビザが取りやすいこと
こうしたマレーシアの魅力が多くの日本人を引き付けており、
リタイアメント世代のマレーシア移住者や、マレーシア不動産を購入する方が
増え続けている。
そこに着目し、日系企業による日本人向けのサービス
(不動産仲介や管理サービスなど)もどんどん広がっているように感じた。
とはいえ、海外で事業展開をするには当然ながらいくつかのハードルがある。
その一つが外資系企業による事業用地の購入規制だ。
細かな条件は複雑なため割愛するが、不動産開発事業を行う場合は、
マレーシア企業との連携(もしくはマレーシア資本との合弁会社)が必要となる。
一方、建設業を展開する際にハードルとなるのが、技術者や職人の問題だ。
マレーシアの建設現場で働く職人の多くは、バングラディシュやフィリピンからの
出稼ぎ労働者で、現場監督含めて高いスキルを持ち合わせた人材は
まだまだ少ないこともあり、仕上がりにおいて日本人が期待する品質水準を
満たすことは困難と言える。
日本からの現場監督者の派遣や職人育成の仕組みが必要となりそうだ。
マレーシアは今後も成長が見込まれる有力市場の一つと言える。
マレーシア国内での事業展開はもとより、タイやシンガポール、
インドネシア、フィリピン、ミャンマーといった東南アジア諸国へも
飛行機で2時間以内の移動が可能という好立地を生かし、
アジア展開の拠点として進出することも考えられる。
特に可能性を感じた分野としては、建設業よりも短期間で職人を育てやすく
リスクも小さい内装業や不動産管理サービス(マンション管理業等)である。
内装業は一般住宅のほか、商業施設において特に日本企業の
品質(施工管理)を求める声をよく耳にした。
マンション管理についても、建物の普及ほどにサービスが追い付いていない
現状があるように見受けられた。
一方で不動産開発事業や建設業、不動産仲介業に関しては、
現地企業との連携や各種許認可が不可欠なため、やや中長期的な
投資事業として捉える必要があるように思う。
海外に事業進出する際は、どの業態が自社にとって最もリスクが
小さく成果を出せそうか、よく見極めて判断することをお勧めしたい。