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若手強育Vol.9 考える力の鍛え方

「最近の若手はやる気がない・・」といったネガティブな嘆きは、

いつの時代も部下の人財育成を考える上で定番のお悩みと言えよう。

 

 

実に今から2000年以上前の古代エジプト時代の粘土板の中にも

同様の表現で当時の若者に対し嘆いていた事が知られている。

 

 

数ある人財育成にまつわる悩みの中でも今回は特に、

「最近の若手は "自分で物事を考えない" "考える力がない"」

といった悩みに向き合うべく、

「考える力の鍛え方」についてお伝えできればと思う。

 

 

 

■「考える力」が企業競争力を支える時代へ

ところで、「自分で考える力」はこれからますます重要になる事は間違いない。

 

 

なぜなら、環境変化の激しい業界においては、これまでのセオリーは

一切通用しないからである。

激変する環境の中では、これまでに経験したことのない問題に対して

どう打破すべきか、「自分で考える力」が求められる。

 

 

 

例えば、経営戦略という観点で言えば、

経営幹部が考える主体となっているであろうし、

営業戦略という観点で言えば、

営業職の管理職クラスが考える主体となろうかと思う。

 

 

 

しかし、本来、環境の変化をいち早く肌で感じ、

真っ先に対応する絶好のチャンスを握っているのは

言うまでもなく、日々現場の最前線でお客様と接している社員である。

 

 

 

自社の社員が、もし「自ら問題に向き合い打破していくための対策を考える力」を

持っていれば、これほど心強い事はない。

 

 

 

いわば、これからは「考える力を持った人財が何人いるか」が

企業競争力を図る指標になるといっても過言ではない。

 

 

 

 

■「指示出しの多発」が人財をダメにする!?

では、どのように「考える力」を身につけさせるのが良いのか。

 

「自分で考えろ!」と感情的になってみても全く意味がない事は

経験上ご理解いただけるのではないだろうか。

 

 

はたまた、「答えを教えるのではなく、考えさせないと!」と

頭では分かってはいても、結局は「何をすべきか」具体的に

指示出しをしなければ、一向に業務が進まないといった事もよくある話だ。

 

 

 

そもそも人間は本来、「自分の行動は自分自身で決定したい」という

欲求を持っている。

したがって、一方的に強い圧力を掛けられ続けると、

部下は反発心を感じるようになり、

その行動をとらなくなるか、あるいはそれに従ったとしても

「嫌々やらされている」という状態のまま行動することになる。

 

 

同じ業務内容であっても、「指示されたからやっている」と感じながら

仕事をしている部下と、「自分で決めて心の底から納得してやっている」

と感じて仕事をしている部下とでは、仕事に対する意欲に

大きな差が生まれる事は容易に想像ができるのではないだろうか。

 

 

 

また、ある実験によると、「指示されながら学習した場合」と

「自分で考えながら学習した場合」とでは、

その後の学習定着率が全く違ってくるという結果がある。

 

 

 

一方的に指示された場合では、「3週間後の定着率」は70%、

「3ヵ月後の定着率」は10%に落ち込む。

一方、自分で考えながら学習した場合、「3週間後の定着率」は85%、

「3ヶ月後の定着率」は65%と3ヵ月後比較にて、

実に6.5倍の違いが生じるそうだ。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまり、「指示出し」だけでは具体的に業務内容を覚えさせるにしても

効果は薄く、無論、「考える力」も身に付かないのだ。

 

 

 

■「質問」こそが「考える力」を鍛える処方箋

ここで、あなた自身をイメージして以下2つの問いかけについて

考えていただきたい。

 

 

 

問(1)

部下に一方的な指示をするだけではなく、

積極的に考えられるよう「質問」を投げ掛けている

問(2)

部下に質問をする際、「なぜできない?」と問い詰めるのではなく、

「どうしたらできる?」という「前向きな表現」を使っている

 

 

 

いかがだろうか。

2つともYESと自信を持って答えられる方は、以下読み進める必要はない。

 

 

おそらく、あなたは既に部下が十分に意欲を持って

「自分で考える力」を身につけている事を

肌で実感できているはずだからである。

 

 

 

実は、「考える力」を鍛える最良の方法は、

普段のコミュニケーションにおける「質問の仕方」にある。

 

 

 

「質問の仕方」一つ変えるだけで、部下が

「主体的に自ら考える意欲を持って、力を見に付けていく」

という事を実現できるのだ。

 

 

 

以下、代表的な「質問の仕方」についてポイントを挙げる。

 

 

 

【拡大質問】

 

 

部下に考えさせたい時は可能な限り「限定質問」を少なくし、

「拡大質問」を多く使うように心がける。

 

 

限定質問とは「YESかNO、あるいはAかBで答えられる質問」であり、

考える余地が限定的になる質問である。

 

 

一方、拡大質問とは「フリーアンサーで答えられる質問」であり、

考える余地を持たせた質問である。

 

 

拡大質問を上手くコミュニケーションに組み込む事で

「自分で考えるトレーニングを積ませる事」が可能となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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例1 部下に訪問件数を増やす方法について考えてもらいたい場合

✕ 「○○さん、訪問件数を増やすために、書類作成の時間を午前10時から

11時までに区切って集中して取り組んでみたらどうだろうか。」

〇 「〇〇さん、訪問件数を増やすためには、どんな対策が考えられる?」

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【肯定質問】

 

 

 

「肯定質問」とは、物事の肯定的な側面に焦点を当てる質問であり、

質問の中に「できる」という肯定形の言葉を含む。

 

 

例えば、「どうすれば時間通りに終わらせる事ができると思う?」

といった質問の仕方である。

 

 

 

一方、「否定質問」は、物事の否定的な側面に焦点を当てる質問であり、

質問の中に「ない」という否定形の言葉を含む。

 

 

例えば、「なぜ時間通りに終わらないのか?」といった質問の仕方である。

 

 

 

肯定質問をされると、部下は前向きな気持ちになる。

すると、自発的に考えるようになり、新しいアイディアが生まれやすくなる。

 

 

反対に、否定質問をされると、部下は後ろ向きになる。

自身の不十分な点について責め立てられているような感覚を受け、

言い訳が多くなってしまう。

 

 

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例2 部下が納期通りに報告書を提出しなかった場合

✕ 「どうして報告書を納期通りに提出できなかったんだ?」

〇 「どうすれば報告書を納期通りに提出できたと思う?」

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例3 挨拶がしっかりできない部下がいた場合

✕ 「どうしてしっかり挨拶しないんだ?」

〇 「どうすればしっかり挨拶ができると思う?」

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「質問の仕方」一つで意識は変えられる。

 

 

 

この機会に、「自分の力で考える力を持った人財を何人創れるか」

という点にこだわってみるのも十分に価値がある。

 

 

 

まずは、日頃のコミュニケーションのあり方から

見つめなおす事をお勧めしたい。